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ブタ丸母ちゃんの後出し日記

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 かれこれ20余年、ブタ丸父ちゃんプロ作家として頑張ってきました。色んなことがありましたが、おおむね努力すればきちんと結果が返ってくる、頑張り甲斐のある作家生活でした。
 時々「順風満帆でうらやましいなー」などと言っていただいたりしたときも、どこかで「父ちゃんが頑張ってるからこそだぞ!」なんて思っていたブタ丸母ちゃんでしたが……。ある時ついに「頑張れば報われる」のがとても運の良い事だったのだと思い知る時が来てしまいました。
 ××年前のお話しです。前年末掲載した読み切りがけっこう人気をとることができたので、似たような路線で連載することが決定し、ブタ丸父ちゃんはまたコメディが描けるのが嬉しくて大張り切りでした。ところが………。

      ━━ 某年1月・昼 ━━
 「母ちゃん、母ちゃん! ネームできたぞ!」
 2階からブタ丸父ちゃんがトテトテと降りて来ました。
 細いなりにも頑張ってつぶらに目を見開き、きらきらと瞳にお星さままで乗せています。
 (――ああ、読んでもらいたいのね、ハイハイハイ……)

 ネームを最初に読んで評価するのも漫画家の妻の努め。
 読んでであげますとも、
 いくらちょうど一息つこうとしてたトコだとしても……
 いくらちょうどドラマがいいトコでも……
 にっこり笑って読みますとも!

 「や、やっぱりあとでいいや、ゴメン……」
 「なんで? 読んであげるからかしてみ」
 「…………母ちゃん顔怖い」
 「いいから、かして!」
 「すいません! すいません! すいません! どうぞ……」
 
 それは新連載・第1話のネーム第1稿でした。
 母ちゃんのすぐ隣にひっついて、ドキドキしながらページを繰る母ちゃんの表情をを見つめる父ちゃん……。
 ちょっと、うっとーしいのですが、これはどのギャグでどう反応したか、リアクションを観察したい父ちゃんのいつものクセなのです。

 「ブハハハハハハッ! 面白い! 面白いよ父ちゃん!」
 「ほんと?! ね、ね、どの辺? どの辺が面白い?」

 ――何年も作家やってるのに、いつまでたってもいまいち自分に自信のないブタ丸父ちゃん、色々細かく聞いてくるのです。
 でもこれにちゃんと答えないと、
 「ホントは面白くないんだ……」
 と、すぐいじけてしまいます。
 テンションを下げさせないためにも、いちいち細かく感想を説明しなければいけないので、ネームチェックはちょっとめんどいのです画像

 「うんとね、この変な踊りとかぁ、あ、このギャグとあとここのクスグリとかが絶妙だね!! 小ネタも満載だし!!」
 「ほんと?!」
 「ウン! 絶対人気とれるよ!」
 「よっしゃあ! じゃー編集部にファックス送ってこよーっと♪」

 上機嫌でファックスを送り終えた父ちゃん、
 勢いでたまっていた台所の洗い物まで洗ってくれました。
 ――やった! ラッキー♪

 後は、編集部からの電話待ちです。
 ところが、これがなかなか返事が返ってこない。
 限られた時間内での作業なので、作家としてはできるだけ早く「直し」をして作画に取りかかりたいところなのですが……。

 今回返事に時間がかかるのには訳がありました。
 この作品、やたら担当さんの人数が多いのです。
 頭数が多いと、当然それだけ色々時間がかかります。
 まず全員がネームを読み、他の仕事もやりつつ時間を合わせてメンバーを集めて会議。直してもらいたい箇所を洗い出します。
 その後やっと父ちゃんに連絡が来るのです。

 ヤキモキしながら待つ父ちゃん。
 まあでも、皆で力を合わせて作品を作り上げるんだから、
 メンバーがければそれだけいいアイディアもたくさん出るさ……とその時は思っていたのです。ところが……。
 「父ちゃん、編集部から電話あった?」
 「……うん」
 「どしたの? 元気ないじゃん」
 「……直しがさー、いっぱい出ちゃって」
 「えー、デキいいネームだと思ったのになー。厳しいね今回の編集さん達。そんで元気ないの?」
 「……いやさー、直すのは全然かまわないんだけどー」
 「何? なーんか歯切れわるいねぇ」
 「……まあ、とにかく頑張るよ……」
 いつもならネームの直しもにっこりサクサクこなす父ちゃんなのに、なぜかいつになくテンションが下がっていました。
 「めずらしいね、どーしたんだろ?」

 そして次の日の夜。
 ブタ丸母ちゃんがいつものようにピコピコポイントメールをチェックしていると、また父ちゃんがトテトテ降りてきました。
 「母ちゃーん、ネームの直しできたから読んで……」
 「ホイよー、どれどれ……」
 「……どう? 面白い?」
 ――なぜか自信無げな父ちゃんです。

 「あれ? なんかギャグ減ってない?」
 「うん、まず主人公とヒロインの心理関係を押さえとこうって事になってさ、そのエピソード入れたら入んなくなっちゃったから削っちゃった」

 「ふーん、心理関係ねぇ。児童誌なのにギャグ優先じゃないんだ

 「なんだよ、お、面白くない?」
 「いやいや大丈夫だって! まだ母ちゃんのお気に入りの変な踊りのギャグ残ってるし! うん、こういう展開もいいかもね!」
 「そう? ホントに? じゃあファクス送っちゃうよ」
 「うん、ご苦労さーん」

 とりあえず、直しが終わって一安心……と、思ったのですが
 やはり今回、まだまだ波乱は続くのでした。

 ――数日後。
 洗濯を終えたブタ丸母ちゃんが居間で10時のおやつを食べていると、ぽてぽてとダルげな足取りで、ブタ丸父ちゃんが仕事場から降りてきました。

 「おー父ちゃんおはよー」
 「ん……もうとっくに起きてたよ」
 なんかあからさまに元気がありません。
 「はーーーーっ」
 長いため息をつき、居間に背中を丸めて座り込んでしまいます。

 「編集部から返事来た?」
 力なくうなずく父ちゃん。
 「また直しくらったの?」
 「――うん……それもほとんど全体なんだ」

 「えーーーーっ?!」

 さらに背中が丸くなる父ちゃん。
 仕事場に戻り、直しを始める気配もありません。

 (ありゃりゃ、こりゃムチャクチャ調子悪そーだね……うーむ、なんか波に乗れてないみたいだねー)
 ブタ丸母ちゃんは眉をひそめました。
 父ちゃんの場合、最初からトントンとリズムよく進む作品では、結果も結構良いものになる場合が多いのですが、こじれだして波に乗れないと、いい所を出せず仕舞いで終わってしまうことになる場合が多いのです。
 (ヤバイよこりゃ、新連載第1話だってのに)

 連載開始の第1話というのはとても大切です。
 なんたって、新連載。
 編集部でもあおってくれる。
 読者もとりあえず目を通してくれる。
 この好条件でアンケートの結果が悪いと………
 最悪第1話で早くも引導を渡される恐れもあるのです。

 (それにしても、第1稿のネーム描いてたときはノリノリだったのに……妙だねぇ。キャラもよく動いてたし……)

 ノリが悪いときはキャラが動かず、ストーリーを追うだけの話になってしまうのですが、今回はとてもよくキャラが動いていて、切れのいいギャグを連発してくれていたのです。
 これだけキャラが動いているのに調子が落ちるなんて事は……
 今までは一度もなかったのですが……。


 (だいいち、第1稿おもしろかったぞ……)
 ――なのになぜ、ここにきてペースが崩れるのか?
 (変だねぇ……)

 「……なぁ、母ちゃん」
 「ん?なーに」
 「オレのマンガってさー、面白いのかなぁ……」

 (ヤ、ヤバイよこりゃ、落ち込み具合が危険水域に入ってる!!

 父ちゃんの気持ちもよく分かります。
 自分でも出来に自信がなかったネームで、編集さんの反応が悪いなら納得できるのです。
 でも、今回はなんか様子が違う。
 打ち合わせで決めた方針どうりの、しかもけっこうノリのよい楽しいネームが描けたはずなのです。
 それなのになぜ、そのネームが全部ボツになってしまったのか? 今一つ事情が分からないブタ丸母ちゃんでした。

 それにしてももしこれで連載延期なんてことになったら……。
 ――ごはんが食べられなくなる!!
 貯金をしない母ちゃんのおかげで
 家計はいつもケツカッチンだ!!!
 ここは、あれだ……おだてまくる! それしかないっ!!!

   …… コーヒーカップ画像Tea time


 ブタ丸母ちゃんの必死のおだて攻撃を、苦笑交じりに……それでも真面目に聞いていたブタ丸父ちゃん。
 なんとか少しは活力を取り戻しました。

 「どう? 少しはネームできそうになった?」
 「いや、だからさ、落ち込んで描けない訳じゃないんだって今回」
 「じゃ、どしたのさ?」
 ――でもさっきまでメッチャ落ち込んでたじゃん……と思いつつ、口には出さず首を傾げるブタ丸母ちゃん。

 「落とし所が分からないんだよ、ネームのさ」

 「落とし所が分からないって?」
 「だからさ、色んな意見があるみたいでさ、担当さんがそれぞれ」
 ――そうだった。今回は担当がやけに多人数だったんだっけ……。

 「そんでもって、皆の意見も考慮しつつ、編集長とお話ししたときの方向性も加えて考えなきゃいけないし……。作品の正直完成形が見えなくなっちゃってさ
 「ふーん、なるほど」
 ――そりゃ筆も遅くなるわけだね。

 「でも元気出たから、皆の意見を整理してもう1回描いてみるよ」
 「おっしや! ガンバレ父ちゃん!」
 無責任な母ちゃんの励ましを背中に聞きながら、父ちゃんは第3稿目のネームを描きに2階へ上っていきました。


 ――2日後。


 そろそろネームが出来ていないと、締め切りがヤバくなる日にちにです。ぼてぼてと、精根つきた足取りで、ブタ丸父ちゃんが仕事場から降りてきました。

 「ネームできた……読んでみる?」
 「う、うん」

 「どう?」
 ひどく不安げに訊く父ちゃん。
 声にも力がありません。

 「どうって……あーっ! 母ちゃんお気に入りのギャグがなくなってんじゃん!
 「だって、ココいらないって言われたんだよ……」
 「え〜〜っ! あ、ここも! こっちも! ギャグがほとんど無いじゃん!!」
 ――これじゃ何が売りのマンガだか分からない…と、言おうかどうしようか、さすがに迷う母ちゃん。

 「つまんない? つまんないんだ……」

 「い、いやそれほどでも……まだギャグ少しだけあるしハハハハ」
 「顔が笑ってない……」
 「いやだってさー、父ちゃんの売りはパワフルギャグじゃんそれが……」
 「読み筋が変になって読者をミスリードするからここは省きましょうって言われたんだよ」
 「へ? なにそれ?」

 今まであまり言われたことの無い「読み筋」というセリフになんかムカついた母ちゃん、ついに声にトゲが出ます。
 「別にストーリーの流れ変じゃなかったケドねー!」
 「女の子の感情の流れがおかしくなるってさ」
 「はあ? このマンガいつから恋愛純文学になったんだい!

 「と、とにかく編集さんの意見入れるとこうなるんだよ! もういいからさ、ファクス送るから!」

 不穏な雲行きに逃げ出す父ちゃん。

 編集さんと怖い母ちゃんのあいだに挟まれ、父ちゃん、まるで中間管理職のようないらぬストレスにさらされています。
 自分で書くのも何ですが……気の毒ですね。

 ――さらに数日後の昼下がり。
 締め切りも迫っています。いい加減さっさと返事が欲しいのですが、あたり前のように待たされます。描く方の身にもなってほしいところです。

 なにやら電話で話していた父ちゃんが、憔悴しきった様子でフラフラ居間へ降りてきました。
 「どしたの? 編集部から返事あったの?」
 「……全ボツくらった……これから直接合ってお話ししましょうって」
 「呼び出しくらったんかい!!!」
 「……いや、こっちの駅まできてくれるって」

 ――そういう意味じゃないよ、父ちゃん……。

 さんざん待たせて締め切りに余裕がなくなってきてからの全ボツ。
 事は予断を許せないところまできていました。

 連載第1話。

 読者に良い印象をもってもらうために、時間をたっぷりとって絵にも力を入れたいところなのですが、そんな余裕がなくなってしまいました。
 あまり、好ましい状況ではありません。

 それにしても、連載を始めるにあたっても、何ヶ月も話し合いをつづけ、すり合わせを重ねたはずなのに……。
 「なんで?」という思いがわきあがってきました。

 前回書きましたが、企画の段階では作家は無収入。
 サラリーマンの編集さんにはピンとこないのかもしれませんが、作家は背水の陣で打ち合わせに挑んでいます。その貴重な時間を割いた話し合いで決めたことが全うされない、気分でひっくり返される、では作家はたまったものではありません。

 海千山千の作家さんは、最初の打ち合わせの印象でその辺を見極め、この編集部には付きあえないと判断して素早く企画をひっこめて他にもっていきます。
 でもブタ丸父ちゃん、ここの編集部とは古い付き合いがあり、なかなかそれができなかったのです。
 今となっては、ここで撤退して他で1から……なんてことができるお金の余裕がありません。

 なによりプロとしての意地があります。

 疲労困ぱいしながらも、きりりと表情を引き締め、父ちゃん打ち合わせに向かいます。

 父ちゃんの背中にブタ丸母ちゃん声をかけます。
 「父ちゃん」
 「ん? なに?」

 「そろそろキレちゃってもいいと思うよ、今回」

 「……お前いっしょに来る?」
 「え?! いーの?」
 「いやいやいやいやいや……ウソウソ、冗談! 絶対ダメ!! 危なくてしょうがないからダメ!!!」
 「なんだよ、まあいーや、頑張っといで、父ちゃん!」
 「ん、じやー行ってきます」

 打ち合わせがうまくいくことを祈りつつ、母ちゃんはおやつを物色しようと、冷蔵庫の扉をあけました。


 ――数時間後、


 「ただいまー」
 ブタ丸父ちゃんが打ち合わせから帰ってました。

 「お帰り! だいじょぶだった?」
 「何? だいじょうぶって?」
 「いやさー、呼び出しくらったから、みんなしていぢめたりとかされなかつたかなーと思ってさ」
 「――あのな〜お前、ただの打ち合わせなんだからさ」

 ブタ丸母ちゃんは「呼び出し」というとつい、番長とか、生徒指導の竹刀持った先生とかをすぐ思い浮かべてしまうのです。

「そんでどうなったのさ? 父ちゃんキレなかったの?」
 カフェオレをすすりながら母ちゃんが訊きます。
 父ちゃんの飲み物の事はは忘れ去られているようです。

 「うん。そういう展開の話し合いじゃなかったからさー」
 「で? どうだったの? 方針決まった?」
 「うーん、何もこう、はっきりとは決まんなかった」

 「えー! どーすんの、もう日にちないのに! なんのためにわざわざ雁首そろえたのさ!」

 「だからさー、みんな一生懸命意見出してくれるんだけど、いまいち統一した方向に行かなくてバラバラのアイディアでさー。それにみんな他の人の話あんまり聞いてなくって話題がぐるぐるループするし……」

 「ぐるぐるって?」

 「いろんなアイディアが次々出てごちゃごちゃになっちゃって、前話したことを忘れてさっき止めようって決めた話に、いつのまにかまた話題が戻ってるんだよ」

 「……それって」
 ――そう、それはまさに “船頭多くして船山に登る” という状況でした。

 「それじゃ話にも何にもなんないじゃん。もう作家に一任してくれてもいいんじゃないの?」
 「そういう訳にはいかないの」
 「何で!」
 「編集方針」

 諦め顔ながらも、冷静な父ちゃん。

 ――プチッ! ブタ丸母ちゃんついにキレました。

怒りのブタ丸母ちゃん画像

 「編集がナンボのもんだいっ!!! 分かってないのがいっくら大勢で話合ったってイミないじゃん!  だいたい直されるたんびにネーム面白くなくなってるし!!!  心理描写とか言っちゃってるけどさ!!  胸キュンラブストーリーを小学校中・低学年の男子読者が読みたがるかー!?  大事なのはギャグとサービスショットじゃないの?! ズレてるよ!!!」

「お、おい、落ち着け母ちゃん……」
 ――でももう母ちゃんは止まりません。

 「あと“読み筋”とか言ってたけどさー、子供はそんな事こだわってないよ!!!  子供に受けるギャグって大人とはちがって、感覚的なんだよ!  児童誌の編集がそんなことぐらい把握してなくてどーするのさ!!!」


 読み筋を意識した理路整然とした分かりやすいストーリー展開。普通の社会人向けの小説ならそれでも構はないのでしょう(よくある単純な展開といわれる可能性大ですが)。でも彼らは漫画の編集者。しかも、ちょっとHなお下品ギャグを得意とするブタ丸父ちゃんの担当です。
 ホントに残念なのですが……
 この担当さんたちは父ちゃんとはミスマッチでした。
 マジメ過ぎました。
 マジメですから、教科書に載りそうな分かり易い読み筋の作品を求めてしまうのでしょう。

 でも、漫画のストーリーは教科書通りでは面白くなりません。
 筋道通りストーリーを追うだけの話がいかに読者の興味を削ぐか、売れる作品の描ける作家ならみんな知っています。

 “お話” は、しょせん作り事です。
 その架空の世界に読者をつなぎ止めるのは、
 「あ、この絵すっげーおもしれー」とか
 「こうきたかギャハハハ」と、
 現実的に読者を笑わせるパワーなのです。

 「おもしれー」と笑わせ、
 「かわいそう」と泣かせ、
 「かっこいい! ステキ!」と魅せて、
 「うおぉぉ」と感動させる。

 そういうリアルなフィードバックが楽しめるからこそ、マンガは大衆娯楽の王様になれたのでしょう。

 だから辻褄の合ったストーリーを調子よく描いてしまっているときにこそ、プロ作家は警戒警報を鳴らし筆を止めます。
 そして読者の心をを動かす “仕掛け” 組み込みます。

 その結果スリトーリーラインが多少破綻しても、です。
 それが読者をひきつけるプロの “売れる” 作品の作り方です。

 それが分からずに読み筋が…と、ストーリーラインだけにこだわっているようでは、面白い作品が作れず、困ってしまいます。

 編集さんは確かに編集作業のプロです。
 でも作品作りのプロではないのです。
 売れる作品の描ける作家の領分を踏み荒らして作品に口出しせずに、もっと作家の力量を信じることも必要なのではないでしょうか……。
 守備範囲を守ってもらわないと、チームプレイはできません。

 でも今回、これほど打ち合わせが迷走してしまったのには、実はほかにも理由があったのです。


 多人数で話し合いをしても、きちんとした方針……航海にたとえるなら「羅針盤」「地図」に相当するものがはっきりとしていれば船は、山には登りません。
 それが今回は明確になっていなかったのです。

 少子化でドンドン読者層が少なくなっているのに危機感を抱いていた編集部は、ターゲット年齢層を広げたがっていました。
 しかし、小学生と中高生では嗜好が(思考もですね)かなり違ってきます。特にギャグは、母ちゃんの言葉通り相当ウケるツボが違います。

 小学校低・中学年ではこじゃれた会話や「くすぐり」は理解不能。
 リアクションギャグが大好きです。
 ちょっと古いですが…猫ひろしが「にゃー」と言っただけで大喜び。
 でも、上の年齢層は退きまくっちゃいます。
 逆に胸キュン・萌え系は、小さい男の子達がキモイ!と、敬遠。

 幼児期と思春期は、好みがかなり違うのです。
 それなのにその両方にウケる作品を描かせようというわけですから、方針が迷走するのも無理はなかったのです。

 実はその辺のところは、こちらにまかせて描かせてもらえれば、細かいさじ加減である程度調整もできるのですが……。
 これは経験と感覚を頼りにバランスを整える作業なので、打ち合わせでうまく説明できるものではありません。
 口で説明しづらいので、父ちゃんもこうしたいからとちゃんと主張できず、ジレンマがたまる一方でした。

   ――ああすれば?
   こうしようか?
   こっちもいいかも……
   でもこれはダメ、あれもダメ!
   だけど人気はとって下さいよ!

 こんな打ち合わせでは、なかなか先が見えてきません。
 締め切りだけは、ドンドン無情にせまってきます。

 「――で、どうする?父ちゃん」
 腹を決めたブタ丸母ちゃん、頭の中ではもう編集部爆撃の準備をはじめていました(笑)。

 「うん、まあさー……それでもなんとなく今回の話の分は落とし所が見えてきたから。……もっかい描いてみるよ」

 ――カクッとちょいゴケする母ちゃん。

 「へ?あ、そーなの?!……なーんだ
 「な、『なーんだ』って、何?! 何かヤバイこと考えてたんじゃないの母ちゃん!」
 「いやいやいや、ぜーんぜんキレてもいませんしー♪ ブホホホホホホホホ♪ そーゆー事なら、がんばってねー父ちゃん! アタシャ買い物行ってくるから! ブホホホホホホホ〜〜」

 不気味な笑いを残し、ブタ丸母ちゃんはソソクサと生協へ買い物に出かけました。エンジンがかかった父ちゃんは、ほっておいてももう大丈夫!
 ――もともといつも、ほったらかしですが……。

 「今日のオカズは何にしよーかねぇ。んー何にせよ安いが一番っと♪」


 ――数日後
 やっとネームが直し終わりました。
 父ちゃんビクビクしながらも、また母ちゃんにネームのチェックを頼みます。
 「ど、どうかな、母ちゃん? 今度のネームは?」
 「待ってな、今読んでんだから……おっ! 削っちゃったギャグ一部復活させたんだ!」
 「うん。やっばオレのマンガギャグが無いとさー。読者が何を求めているのか考えるとこうなるんだよね」
 「ウンウン、そーだよ! まず読者の方ちゃんと見ないとね! それが漫画家の本分だよね♪」

 でき上がったネームはギャグを増やし、明るく楽しいサービス♪シーンにも力を入れ、なおかつ編集部のこだわっていた「説明」と「読み筋」も押さえる、という実にミラクルナ絶妙なバランスの作品に仕上がっていました。
 第1稿に比べるとおとなしくはなりましたが、これなら八方丸くおさまりそうです。

  ――TURUUUUUU

 ブタ丸母ちゃんがベランダでバスバス布団を叩いていると、父ちゃんが嬉しそうにやってきました。
 「母ちゃーん!ネームオッケー出たぞー!! しかも、すごくいい出来です、ご苦労様って褒めてもらえたぞ!」
 「おー! やったね♪ 長かったねー」

 父ちゃん久々にいい笑顔です。
 この達成感があるから父ちゃんは、読者だけでなく、何とかして編集さんも納得させたいと頑張ってしまうのでしょう。

 「見てよ、これ!」
 それは分厚いボツネームの束。
 連載1話分の量としては最高記録です。

 「あー疲れた〜〜」
 「おいおい父ちゃん、大丈夫かい? 今のところまだ1ページも原稿完成してないんだよ!
 「うん大丈夫、後は絵だけだからストレス無いし。アシスタントさんにも今回は多めに仕事頼んじゃうつもりだしさ」

 「あ、そ、そう?」

 ピクッと母ちゃんの頬が引きつりました。
 (――それはその分経費がかさむって事ジャン……毎回これだとちょっと困るねぇ。ネームにこんなに時間とられると、他に仕事が入れられなくなるし……)

 お金が絡むとますますシビアになるブタ丸母ちゃん。
 胸に不安がわき上がります。
 (まあ、いくらなんでも毎回々こんなにもめるわけないか)

   ――けれど……。

 母ちゃんの不安は的中してしまうのです。
 第1話から大波乱のこの連載は、最後の最後まで大荒れ続きの地獄のロードだったのです。

  ≪今回の教訓≫ やたら担当の人数が多いときには気をつけよう
                        +++ 2.END +++

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      画像次回は第3話
       「ネタ切れぇ?!切れそうなのはこっちの
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