ブタ丸母ちゃんの後出し日記

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 無事連載第一話は掲載され、まずまずのアンケート結果も出すことが出来ました。
 当然力の入る担当さん達。
 父ちゃんへの期待も大きくなります。
 それに応えるべく、父ちゃんも色々な登場人物……
    ――ライバルキャラ、美少女敵キャラ、ギャグキャラ
 等々バラエティーに富んだ登場人物を作り第二話に挑みます。

 週間連載とは違い、月刊連載ではいくら新連載といっても、当然第二話は前作から一ヶ月も経ってしまっているので、前作の勢いに寄り掛かった作品は描けません。
 毎回畳み込んでいかなくてはいけないので気が抜けないのです。

 その辺のところは今までの経験で身にしみています。
 ある程度きちんとシリーズ構成を考えつつ、最初の数ページでしっかり読者を掴んで話に引き込んでいく……積み上げたスキルの見せ所です。

 ええ、見せ所だったんです。
   ――やらせてもらえれば………。


      ━━ 某年二月・午後 ━━

 「母ちゃん、母ちゃん、このキャラどう?」
 ブタ丸父ちゃんお出かけの支度をしつつ、たくさんのラフをブタ丸母ちゃんの所へ見せに来ました。

 「支度できたの? 時間大丈夫?」
 「へーきへーき、晴れてるから駅までバイクで行けるから」
 「ならいーけどさ……おー、いいじゃん!敵キャラ?」
 「うん、今回はライバルが送り込んできた天然系のキャラと戦う話にしよーと思うんだ」
 「ちゃんとギャグ描かせてもらえるといーねぇ」
 「大丈夫だろ、前回人気とれたんだから。じゃ行ってきまーす」
 「行ってらっしゃーい、おみやげのスィーツ忘れないでね♪」

 父ちゃん今日は編集部で打ち合わせ。お食事もおごっていただけそうです。
 昔なら、打ち合わせと言えば何かしらおごっていただけたのですが、最近はどこでも経費節減で接待していただける回数がぐんと減って寂しい限りです。
 ブタ丸母ちゃんにとっても、父ちゃんが外ごはんの時は「手抜き」と決めていて、いつも子供とpizzaなど頼んでいるので接待が少なくなったのは大打撃です。

 「おーい息子その1その2、今日はpizzaだよーーん♪」
 「ワーイワーイ!!」
 「オレいつものデラックスね!」

 ブタ丸父ちゃんが戦場ともいえる編集部で必死の戦いをしているとき、ブタ丸母ちゃん達はpizzaパーティでのんびりと楽しい一時を過ごしていました。
 そして……。

 夜、子供達がおやすみを言って二階に引き上げた後、
 「ただいまー」
 ブタ丸父ちゃんが帰ってきました。

 「おー、お帰り! 何おごってもらったの? おみやげのスイーツは?」
 「ハイ、これ不二家のケーキ……なんか食べるものある? pizza残ってる?」
 「残ってるけど、子供達が朝ご飯に食べるって予約済みだよ。どしたの? おごってもらったんじゃないの?」
 「編集さん達、仕事がまだあるからまた今度にしましょう、だって」
 「え? そーなの? じゃーなんも食べてないの?」
 「駅で立ち喰いそば食べた……」
 「………」

 新連載好スタート記念の豪華接待のはずが立ち喰いそば……こりゃ、なんかスゲーさみしい展開です。

 また今度……って、ビミョーな言葉ですよね。
 今度っていつ? その日はホントに来るの?
 人気商売やってますと、いらん気も使ってしまうのが性。
 女の子をデートに誘った時のように色々考えてしまいます。

     ●『また今度』 ビール画像の真の意味についての考察
  1.ホントに忙しかった。
  2.ホントは食事に行きたいのだが、今月の
   接待費の枠を使い切ってしまった。
  3.先月接待費の領収書をちゃんと出していなかったので、
   経理の人に怒られて次の接待費が降りそうにないため。
   (某編集さんの実話デス)
  4.別のもっとプッシュしなくてはいけない
   作家さんのために接待費を使うことにした。
  5.めんどくさくなった。
  6.この作家は接待しないでいいと編集長に言われた。
  7.実は嫌われている。
  8.実はアンケートがめちゃくちゃ悪かった。
  9.実はもう、打ち切りが決まっている。
  10.実はもう、コイツなんかいらないと思っている。
  11.実は………
     ――どんどん悪い方へ妄想が暴走していくので
       この辺で止めておきましょう。

 「そばだけじゃお腹すいてるよねー」
 「ウン、だからpizza食べちゃ……」
 「 ダメ! 食欲魔神の息子その2が、朝っぱらから大泣きするからダメ!」
 「……そだね。じゃカップ麺食べる」

    ――かわいそうなブタ丸父ちゃん。
 「で、どうだったの? 次の話なんにするか決まった?」
 「ウン、修業の話になった」
 「そっか! じゃーアイディア考えないとね! 大掛かりでお馬鹿でサービスシーンもあって、ライバルも絡めた方がいいよね!」
 「もう、アイディア出来たんだ」
 「へ? そーなの、早いじゃん!」

 さすがに多人数いるといいアイディアがいっぱい出るんだなーと、感心したブタ丸母ちゃん。
 ……でも、すぐそれは落胆に変わってしまいました。

 「で、どんなアイディアでたの? すっごい笑える修業するの? それともサービス満点のウッフーンな修業? 敵はどのキャラ出すことになったの? ねー」
 慣れているはずのいつものブタ丸母ちゃんの質問攻めに、なぜか少し口の重いブタ丸父ちゃん。

 「…………家事手伝いするの」

 「は? なにそれ? どーゆー意味?」
 「だから、家事をしてるうちに、いつのまにか強くなるって話描くの」

 「…………むちゃくちゃ地味じゃん」
 「…………そーかな?」

 「そーだ! 敵キャラは? 敵でキレイ所出しとけば少しは派手に…」

 「出さないの。修業だけするの」

 「――何で?」

 「読み筋を一本にした方が分かり易いからだって。キャラも増やすと感情移入の読み筋をミスリードするからまだ増やさないんだって」


 「まぁた“読み筋”かいいっっっっ!!!!」

怒りのブタ丸母ちゃん画像2
      ――ブチチチチチッッッッ!!!!
          ブタ丸母ちゃん再びブチキレた!!

 「一回に読み筋一本だぁ? 月刊誌でそんなことやってたら、アッというまに読者に飽きられるワ!!! 出し惜しみせずに楽しさてんこ盛りにするべし、が月刊連載の原則でしょうがっっっ!!! 
  アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


 「〜〜ひぃぃぃぃん、母ちゃん、オレに怒ってもしょーがないよ〜〜〜」
 「……ガルルルルルルル」
 「と、とにかくさー、打ち合わせで決まったことだからさ。大丈夫! 制約がある中でも面白いの描ける自信があるから! みてて!」
 「……そうなの?」
 「ウン! じゃ、仕事に入るね」

 トテトテと仕事場に向かうブタ丸父ちゃん。
 頼もしい後ろ姿を見送りつつも、心の中で考えるブタ丸母ちゃん。

(なーんでわざわざそんな飛車角オチで勝負するみたいな損なコトしなきゃいけないんだい! アホだね! 編集部!)

    ――かっこいい敵キャラに、coolビューティの美女敵、
      いろんなメカに、変技、天然ボケのかわいいキャラ。
      日の目をみることがはたしてできるのか?

 母ちゃんの胸には不安の黒雲がたちこめていました。
 そして……。

 「今回はネームにどんだけ時間取られんのかねぇ……他の仕事一本入れないと来月首がまわんなくなるんだけど……」

 思ったよりページ数がもらえなかったため、家計にも暗雲がのしかかってきていたのです。

    ――ヤバイぞ! どうなる? ブタ丸一家!

 「かーちゃん♪ ネームできたからみてー!」
 2日後、早くもネームを書き上げた父ちゃんが仕事場から降りてきました。
 「おー! 早いジャン。どしたの?」
 「Bさんから仕事入るかもしれないからさ、早く連載の原稿仕上げて時間作ろうと思って」
 「え?! ホント? やった!! ラッキ〜!」

 Bさんからの仕事というのは、某・国営放送人気番組のコミック化シリーズの事です。
 何人かの作家さんと共同で一冊の単行本を描くのですが、とてもよく売れている作品なので、ちょくちょく再販がかかり臨時収入が入るのです。
 ぜひともやらせていただきたい “お得” なお仕事です。

 実は今回の連載、第1話のアンケートが良かったのにもかかわらず、早くも第2話で最初聞いていたページ数よりページ数が4〜5ページ減らされてしまい、それだけでまるまる○万円の収入減で、家計は赤字状態に転落していたのです。でもBさんからの仕事が入れば一気に補填できます。
 ここは父ちゃんに頑張ってもらい、ぜひBさんからの依頼を受けたいところです。

 母ちゃん、ウキウキ気分でネームに目を通します。
 「へー、さっすがだね。地味〜な “お題” の割りにギャグいっぱい入ってるジャン! 特にこのオババのギャグが…ゲヒヒヒ♪ 面白いよ!」
 「やっぱ家事やってるだけじゃ動きがないからさー、少しアイディア足したんだ」
 「ウン! いいバランスになってるよ」
 「ホント? じゃーネーム送ってくるね!」

 (よっしゃ! このペースならカマボコ猫君とこに背景頼めば、十分Bさんの仕事もこなせるね!ウンウン、よしよし♪)

 カマボコ猫君とは、いつもネットでアシスタントを頼んでいる若い作家さんで、お花からお城までなんでもオーダーできる強力な助っ人さんです。
 ご夫婦で作画して下さるのですが、二人ともとても絵がお上手で、どんなものを頼んでも二人で手分けしてハイクォリティーな絵を素早く仕上げてくれるのでとって頼りになります。
 原稿はファックス&パソコンでやり取り・受け渡しをしている “ネットアシスタント” さんで、その点でも色々助かっています。
 ネットのアシスタントさんだと、食事や寝る場所の事は考えなくて良いのでとても母ちゃん的に楽なのです。
 良い時代になったものです。

 「これで赤字は一気に解消! なーんか買っちゃおーかな♪ ブフフ」
 母ちゃん早くも “取らぬタヌキの皮算用” を始めていました。ところが……。

 数日後、やきもきしてネームの評価を待っていた母ちゃんの所に、ブタ丸父ちゃんがのそのそやってきました。

 「父ちゃん、編集部から返事きたの?」
 「……ウン」
 「やっときたかい! まったく時間が足りないってのに! 困るよねー。で、なんだって?」
 「……いっぱい直しが出た」
 「え? また? そんなに内容ないのに、ドコ直すのさ!」
 「ひとくちで言えないから、とにかく直したら見せるね……」
 「そ、そう? じゃー頑張ってね!」

 階段を上っていく父ちゃんの背中を見送った後、母ちゃんイライラ解消にパソコンに電源をいれます。

 「ポイントメールでもクリックしようっと。あー、また直しかい。どんどん時間がなくなってくよ…頼むよ、もう! 編集部! ページ減らしたんなら、時間は返してくれっての! 霞喰ってるわけじゃないんだよ、こっちは!」

 ――翌日。

 素早く直しを終えた父ちゃんが、ネームを見せに降りてきました。

 「どう?」
 不安気に母ちゃんにネームのチェックを頼みます。一読し眉をひそめるブタ丸母ちゃん。

 「……追加したせっかくのアイディア、削られたんだ……

 「……うん」
 「しょうがない…背に腹はかえられないもんね、時間がないからね。いいんじゃないこれで……。まだギャグ残ってるし! これでいこう!」
 「……うん」

 なんか微妙な言い回しになってしまう母ちゃん。
 父ちゃん、肩をおとしながらファックスを送り始めました。
 自分でも納得はいかないのでしょう。

 ――2日後。

 「返事きた? なんで丸2日もかかるかねー! でもまあ早い方か」
 「……返事きたけど、また直しがたくさんある……」

 「え〜〜〜っ! なんで!

 「もう少し整理しろって」

 「これ以上スッキリさせたら話なくなるよ……

 「だから読み筋一本に………」

 「………………“読み筋”ぃ?」

 「な、直すから! すぐにやるから! き、キレるな母ちゃん!」

 父ちゃんは逃げるように仕事場へ駈け上っていきました。
 階下にはキレた母ちゃんの怒鳴り声が響いています。
   …… コーヒーカップ画像Tea time

 気晴らしにとパソコンに向かい、またポイントメールをクリックしていたブタ丸母ちゃんでしたが、「ランダムマイル」で四回続けて1マイルを出してしまい(ありがち…)よけいストレス度がupしてしまいました。

 「いかん! かえってイラツクよ…そうだ! ちょっと2チャンネルでもチェックしてみよーかな♪」

 第1話の掲載された本は数日前に発売されましたから、なにか感想が書き込まれているかも知れません。

 「2チャンネル♪2チャンネル♪ 見てはヤバイぞ2チャンネル♪ だけど気になる2チャンネル〜♪…ってか フンフン…お! もうスレッド立ってるね。どれどれ……」

 不気味な歌を歌いながらモニターに見入るブタ丸母ちゃんの口が、記事を読みはじめた途端あんぐりと大開きになりました。

 「――なんだこりゃ……」

 スレッドにはブタ丸父ちゃんこと「トンコツ・とん太」先生の連載開始を喜ぶ記事も投稿されていましたが――。

 「……ほとんど ポッ画像 バスト先端部 ポッ画像 についての投稿ばっかリジャン」

 児童誌なんだからね、ホント どよーん画像
 すみませんが2チャンネルの皆さん……。

 「……全部見せろって!? 無理無理無理!」
 「……よくがんばった方だ? そーかい、ありがとよ!」
 「……全部描いて下さいおねがいします? お願いされても無理!!」
 「……うまいこと隠してる? 苦労してんだよ」
 「……ちゃんと描け!? だから無理だって!!!」

 「――だめだこりゃ………」

 何か編集部にアピールする建設的な投稿でもないかと期待していたのですが、母ちゃん脱力してページを閉じました。

 「しかも作者が匿名で投稿してるみたいなこと書いてるヤツもいるし……」

 作品についてのスレッドは編集さん達もほぼ確実にチェックをいれていますから、そこに作家が投稿するなんてことはまずありません。バレるとかなり恥ずかしいですから……。

 とりあえず、一言書いておきますね。
 2チャンネルに投稿している皆さん、そうなんです、君たちの投稿記事はかなりの確率で編集さんの目に触れているんです! ぜひ、参考になる真剣な意見も載せて下さい。良い作品を作る手伝いを皆さんにもして欲しいです!
 ――って書いても、バスト先端部についての真剣な投稿が増えちゃうだけのような気もするのですが……。


 ――10日後。

   ぶぉぉぉぉぉぉおん…!

 とんこつ家の居間にほら貝の音のような低いうなり声が響きました。
 ブタ丸母ちゃんのため息です。

 「どうにも、まずいねこりゃ……」

 2階ではブタ丸父ちゃんがまだネームの直しをしています。
 連載ももうはじまっているのですからそう何度も直しが入らないとたかをくくっていたネームが、まだ通りません。
 あくまで内容をスリム化したい編集部と、楽しい話が描きたくてついギャグやくすぐりを入れてしまう父ちゃんの方向性に、ズレが生じているからでしょう。

 今回はそれでも早く原稿を描き上げたくて妥協に妥協を重ねて修正をしているのですが……。
 もうすでに4稿目に突入しています。

 「……あかん、このペースじゃ何十ページもある読み切りなんてとても入れられないよ」
 パソコンの電卓を閉じ、母ちゃんまた深々とため息をつきました。

   ぐぶぉぉぉぉぉぉおおおん!!!

 「うわっ! な、なになになに、今の?!」
 「ため息だよ! た・め・い・き!」
 「そ、そうなの? ……母ちゃん直しできたから見てくれる?」
 「……はいよ、ごくろーさん……」

 ネームを受け取った母ちゃん、思わずことばつまらせ、手元のネーム用紙をじっとみつめてしまいました。

 何度も何度もあちこち修正をいれたネーム用紙はまっ黒で、ずたずたにあちこち切り張りされ、ボロボロになっています。
 もう、第1稿がどんなものだつたかは再現不能。
 父ちゃんの苦労の後がまざまざと見て取れる迫力のあるネームの束でした。

 「読みづらくてごめんね」
 「いーや、大丈夫だよ」

セロテープで貼り付けられているところを破かないように気をつけながら、母ちゃん慎重にページを繰ります。

 「………どうかな?」
 「最後のサービスシーン、なんかとってつけたみたいな感じになっちゃってるね……」

 無理ありません。
 実際、最後に編集さんの意見を入れ、急きょ付け足したんですから。

 話をとことんスリム化したら、さすがにあからさまに寂しくなってしまったので付け足したサービスシーン。
 前後の感情移入もワクワクもハラハラもない付け足し。
 これで萌えられるのかも微妙なところ……。

 さすがの母ちゃんもいつものように
 「いーじゃん! いーじゃん! おっもしろいよ!」
と、はしゃぐことはできませんでした。

 「編集部の要望どーりならさ、これでだいじょぶなんじゃない?」
 ごまかしながら、歯切れの悪い返事を返します。

 「そう? じゃファックス出すね……」
 父ちゃんもまったくモチベーションが上がらない様子で重い足取りで玄関のファックス台へとトテトテ歩いて行きました。
  ――翌日

 「かーちゃん、ネームOK出た」
 「そう、で、どうだって言ってたの? 出来については」

 「うん、すっごく良くできてるって言ってた。こういう感じのが欲しかったってほめてくれた……」
 「………そ、そうなんだ」

 (だめだ、こりゃ)

 心の中でつぶやき、肩を落とす母ちゃん。

 「それから、母ちゃんゴメン。Bさんからの仕事今回は時間なくなっちゃったから断ったから…」
 「しょーがないね……」

さらに肩を落とす母ちゃん。
 「次はおねがいしますって、言っといたから。またたぶん声かけてくれると思うからさ…」
 「………」
 「じゃ、し、仕事するね…急がないと締め切りギリギリだから! じゃーね〜〜!」

危険を感じた父ちゃんは、逃げるように二階へ駆け登って行きました。

 「とーちゃんゴメン! 今月こづかいへらすからねーーーっ!」

 無情なセリフが父ちゃんの背中を追いかけます。

   ――ズベッ

 父ちゃんのコケた地響きが、一瞬二階に響き渡りました。
 いつも一番苦労するのは
 かわいそうなブタ丸父ちゃんです。

 ――数日後・午後三時

 「ブフフフフ♪ いまjustヒットは名古屋グルメなんだよねー。ん?! 納豆コーヒーゼリーサンド? なんじゃそりゃ……」

 ブタ丸母ちゃんがのんきにパソコンでグルメコーナーを検索していると、父ちゃんが降りてきました。
 「かーちゃん、原稿できた……これから寝るから」
 「おー! ごくろーさま…どしたの? なんかぐったりしてるじゃん。あんまし寝てないの?」
 「……そーでもないけど…じゃ、上行くね。編集部から電話あったら起こしていいから」
 「あ、そうなの? じゃ、お休み」

 (原稿できたばっかりなのに、元気ないねー)

 いつもなら徹夜明けでも、逆にハイになって元気なことの方が多い父ちゃんが、妙にぐったりしています。ブタ丸母ちゃん、少し心配になりましたが「納豆コーヒーゼリーサンド」に気を取られ、またパソコンに向かってしまいました。

 その後すぐ。
 「かーちゃん、ただいまー! きょーの晩ごはんな〜に?」
 息子その2、食欲魔神こと次男トン太郎が学校から帰ってきました。
 「お帰りトン太郎。お前ねぇ、帰ってくるなり『晩ごはんな〜に』じゃないだろ。『ビューティフルでラブリーなお母様、いかがお過ごしでしたか』とかさ、ハイソなご挨拶してみ」
 「……ビューティフルでラブリーなお母様! きょーの晩ごはんな〜に?」
 「ちくわチーズ!」
 「げっ! また!?」
 「『げっ』じゃないよ! ぜーたく言わない! ウチは緊縮財政なんだからね!」
 「行ってきまーす」
 「オイこら! ランドセルぐらい片付けなっ!!……って、早っ! もういないよ」

 そのまた後一時間後。
 「かーちゃん、ただいまー! きょーの晩ごはんな〜に?」
 息子その1、長男ブタ丸が学校から帰ってきました。
 「お前らなー、そろいも揃って言うこたぁ他にないんかい! ちくわチーズだよ!」
 「おー、やった〜! オレ大好物♪」
 「お前はいい子だね〜、ウンウン……って、早っ! もうパソコンの前にいるよ! また他所様のお絵描き掲示板でお絵描きかい! 手ェ洗って着替えなっ! てか、運動しろっっ!!!」

 ――などと、平和な日常を繰り返す家族をよそに、その時大黒柱父ちゃんには異変が起こっていたのです。

 ――午後五時

 父ちゃんがのろのろと寝室から降りてきました。
 「あれ、とーちゃん、もー目がさめたの?」
 「……まだ寝てないんだ」
 「へ? どしたの、うるさかった?」

 「だるいんだけど、眠れないの」

 「――え?! だ、だいじょぶかい?」

 「ウン。なんか 幻聴 が聴こえるケド、だいじょーぶ……」

 「それは全然だいじょーぶじゃないよーーーつつっっっ!!!    ド鬱 入っちゃったんだよ、そりゃ!!!
 ちょっと、どーしよーかね! そ、そーだ! なんか楽しいこと考えなっ!  うーんと…とりあえず 踊ろう か?!

 「それだけは止めて……」

 ――いつもニコニコしているとーちゃんが……。
 ブタ丸母ちゃんの胸に怒りがふつふつとわき上がってきます。
 そして……。
 「なーんか小腹か空いてきたねぇ」

 そうです。
 ストレスが加わると、ブタ丸母ちゃんは食欲が増すのです。

 「うーん、さっきの納豆コーヒーゼリーサンド、取り寄せしてみるかね……ひょっとしたらいがいとイケルかもしんないし」

 ――止めろ! ブタ丸母ちゃん!
 家計だってカツカツなんだ!!
 どうなる?! ブタ丸一家!

  “納豆コーヒーゼリーサンド”について知りたい方はこちらから♪ 
   (注)取り寄せはできないとおもいます
      情報提供  toku さん(HP
      参照記事  APRI さん(HP)掲示板


 「父ちゃん、アタシの顔をじっとみてごらん」
 「え?」

 寝ついて間もないのに目が覚めてしまったブタ丸父ちゃんが、眠い目をこすりながらトイレから出てくると、いきなりブタ丸母ちゃんに胸ぐらを掴まれました。

泣くブタ丸父ちゃん

 「……な、なな、なぁに? 母ちゃん?」
 「どう見える?
 「……ど、どど、どおって?」
 「いつものようにビューティフルでラブリーに見えるかい? なんか恐い怪獣のように見えるとかいう風にはなってないかい?」
 「い、いつものよぉ〜に、ビ、ビビ、ビューティフルでラブリーにみえてますよォ…ハハハハ」
 「ふ〜む、幻覚とかは見えてないね……」

 ――いや、見えてるよそれ、幻覚が。確実に!

 「なんだ、心配してくれてるの」
 あやうく、ちびりそうになっていたブタ丸父ちゃん、すこし胸が熱くなりました。

 「大丈夫! 一休みして元気になったから! それに今描いてる連載第3話は、編集さん達が考えてくれたお話しだからさ、そんなに何回もボツは出ないよ。」

 あまりにも編集さんと食い違ってしまう今回の連載、実際のところどんな作品が欲しいのかはっきりさせるため、第3話目のストーリーは、丸々担当さん達にアイディアを出してもらって、それを描くことにしたのでした。

 けれど、そのアイディアが……。

 「あの、連載が何年も続いてネタ切れになったラブコメの作者が苦し紛れにひねりだした…みたいなストーリーをさ、いったいどう料理すんの? またストレスたまって鬱入っちゃうんじゃないのかい?!『幻聴が聴こえる…』なんて事態はヤだよ、もう……」

 「大丈夫。面白いギャグ思いついたから! みててよ!」
 「ギャグ描いても削られちゃうじゃん!!
 「今回からはね、削らせないから!」
 いつになくきりりとした表情で、父ちゃんはきっぱりと言い切りました。

 (――! 父ちゃんが、戦闘態勢をとっている!)

 ブタ丸母ちゃんはびっくりしました。いつも穏やかなブタ丸父ちゃんが燃えている!

 「でもさ、編集長まで入れると四対一だよ、大丈夫?」
 「実はさ、編集長はオレのギャグけっこう気に入ってくれてるみたいなんだ。だから担当さん達さえ説得できれば大丈夫そうなんだ。頑張るよ。ギャグは守り通すから!」
 なるほど、それは心強いことこの上ありません。
 しかしそれでも、打ち合わせは三対一。大変なのにはかわりはないのです。

 「……父ちゃん」

 「少しは見直した?」
 「いや、そーじゃなくてさ。なに、そのアゴ。髭伸ばすの?」
 「え? ……なんだ、こっち? うん、少しは貫録つくかなーと思って、伸ばそうかなと考えてるんだけど…変?」

 ――いつも形から入るブタ丸父ちゃん。

 「変じゃないけど、やたら人相が悪くなるねー。でも確かに貫録はつくよ。ちょいワル風に見えないこともないし。まーいいんじゃない、伸ばしても」
 「そう? ブフッ♪ じゃ、仕事に入るから!」

 髭を伸ばす許可がもらえて、ブタ丸父ちゃんは少し嬉しそうに仕事場へ向かいました。
 しかし、今回もやはりすんなり打ち合わせは進まず、何回もボツが続いてしまったのです。
 でも今度は、粘りに粘ってギャグを死守するブタ丸父ちゃん。必死の攻防が繰り広げられます。
 見守る母ちゃんのストレスはうなぎ登り……。

 「あ〜なんか小腹が空いてしょーがないネェ……」
 おかげで母ちゃんの食欲もうなぎ登りです。

 ――そんなある日の午後……。

 「ただいまー。今日の晩ご飯なーにー?」
 トン太郎が帰ってきました。
 「……だからさ、そのただいまの挨拶止めっつーてんだよ! みっともない! ちくわチーズだよ!」
 「え〜またー?」

 「またーじゃないの! 欧州ブルガリアのチーズを和風にくるんだ、琴欧州のようなワールドワイドな香り の(an accolade(賛)by.JINさんちくわチーズだよ! ハイソなディナーなんだよ! だから文句言うじゃないっっ!」

 「あれ? かーちゃん、なんか明太子の匂いがする…」

 ――ギクッ!
 (この子はアタシに似て、鼻が利くんだよね…ヤバイ)

 「オレたちにかくれて、なんか食べたなー! タラモスパゲッティとか…! みんなにはちくわチーズ食べさせといて、自分だけおいしいモノ食べるなんて、ずっるーーい!!」
 「しょーがないネェ、ナイショでアンタだけには分けてやるよ、まだ材料残ってるから」
 「ワーイ♪ ワーイ!」

 ワクワクしながらテーブルで待つトン太郎の前に、お椀に盛られた妙なおやつがドンと置かれました。

 「山盛りにしてやったからね、お食べ♪ おいしいよ!」
 「………かーちゃん、なんでアイスクリームに明太子が乗ってるの?」

 「名古屋裏グルメ・母ちゃんスペシャルだよ。他称ブラック・メニュー&珍食文化ナビゲーターtokuさんご紹介の 元祖明太パフェをまねしたんだ♪  わけのしんのすも浜行って取ってきて底に敷いてあるよ♪ チョコレートソースの香りにも負けない魚卵の生臭みと磯の香りがたまらないだろー♪」

 「………これいらない。遊びに行ってきまーす!!」

 「あ、コラ! なんで食べないんだい、もったいない! 五時には帰るんだよー! …しょーがないねぇ、じゃ、アタシがいただくよ♪」

 セリフとは裏腹に、とてもうれしそうに元祖明太パフェ・母ちゃんスペシャルにかぶりつくブタ丸母ちゃん。
 家計と体重は大丈夫なのか?!

 ――半月後。

 連載第三話が掲載されている本を手に取り、

   ぶぉぉぉぉぉぉおん…!

 と、深々とため息をつくブタ丸母ちゃん。
 眉間には鋭いシワが刻まれています。

 「救いは父ちゃんが死守したギャグだけだね〜。カマボコ猫君がすっごいリアルな絵で盛り上げてくれてるし……でもねー、話の基本がラブストーリーにされちゃってるからネェ。なんで女の子がなにがなんでも主人公に惚れてなきゃいけないんだか。無理がありすぎるよ、この設定。読者が感情移入できゃーしない……」
 「でも、今回とーちゃん頑張ったからね。このギャグがなかったら、もう、どーしよーもないよ。微速だが前進はしている! ウン……あ、そうだ!」

 ブタ丸母ちゃんは、またインターネットで読者の反応を調べることにしました。けれど……。

 「えーと、今回はいろんな雑誌の感想を載せてるサイトを見てまわるかね。ふむふむ…あ、すっごく褒めてくれてるサイトがあるよー♪ うれしいねぇ、拝んじゃうよ。 あとは、っと…ん? こ、これは……!

 そのホームページには、母ちゃんが一番見たくなかった批評が載っていました。まともな、しっかりした批評が書かれているページだけに、ズシッとダメージがきます。

 『早くもネタ切れか、トンコツ・とん太』
 『かつての作品のようなギャグのキレがない』


 母ちゃんはぐっと両手を握りしめます。
 いくら頑張っても、微速前進状態では、生き馬の目を抜く漫画界では通用しません。
 どんな都合や事情があっても、結果がすべての実力の世界。
 読者に言い訳する場所はありません。
 結果を正面から突きつけられるのは作家だけ。
 いずれは本の売り上げという形で出版社にも結果ははね返りますが、いの一番に責任をとらされるのは、作家です。編集者の責任は、たいがいうやむやのままにに終わってしまいます。

 それでも…編集部の意見もきちんとききながら、少しでも楽しい作品にしようと文句も言わず頑張っているブタ丸父ちゃん。

   ぐぉぉぶぉぉぉぉ
      ぉぉおおおが!!!


 ついにブタ丸母ちゃんが吠え声をあげます。

「ネタ切れぇ?! 切れそうなのは

   こっちの忍耐力
     じゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 ドンガラガツシャーーン

 びっくりしたブタ丸父ちゃんが、二階から転がり降りてきました。
 「なになになに! どーしたの母ちゃん!」

 「だって、父ちゃん……」
 「また、オブラートがノドに張り付いたの?」
 「いや、そーじゃなくって……」

 パソコンの画面をちらりと見る父ちゃん。

 「こんなの気にしないの、母ちゃんは! 元気で笑っていてくれれば、それでいいんだから」
 「いやさ、アタシャ十分元気だよ、笑ってみようか?

笑うブタ丸母ちゃん

 「……グフッ」
 「なんだよ、そのグフッってのは!」
 「いや、ちょっと、視覚的ダメージが……」

 「オレはだいじょーぶ! 今回で自分のスタンスがちゃんと取れたから。編集長も理解してくれてるし、自分の漫画、描くよ!」
 「そうかい? ホント、ちゃんとしとくれよ。あたしゃストレス喰いで、また太っちゃったんだから」
 「……オレはちょっと痩せちゃったよ、三キロばかり」

 「ぬわぁんだとぉぉぉぉぉ!!!! ひとりだけダイエットしただとぉぉぉ!! 許さん!」

 「ひぃぃぃぃ〜〜〜、別に、ダイエットしたんじゃないんですぅぅぅ〜〜!! ご、ごめん母ちゃん、こ、殺さないでぇ〜〜〜!!

 いろいろ大変なこと続きですが、作品を描かせていただける限り、全力をつくす決意を新たにした父ちゃん。
 今日もトテトテ仕事場に向かいます。

    頑張れブタ丸父ちゃん!
    負けるなブタ丸父ちゃん!
      ――いろんなものに、ね♪

  ≪今回の教訓≫ 責任をとらされるのは作家。
         悔いのないものを描くべし!
                        +++ 3.END +++


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