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ちょっとクラッシュ寸前……いやすでに一回クラッシュしましたが……の話題が続きましたので、ここら辺でソフトな裏話をいくつか紹介することにしますね。
「漫画家」というと、つきものなのが「アシスタント」さんのエピソードでしょう。 そこで第五話では、アシスタントさんにまつわるお話を少し書きたいとおもいます。 ![]() とにかく、ものすごーく、そりゃーもう、絶体絶命なぐらい忙しいからこそ来ていただくアシスタントさんです。 はっきり言って役に立ってくれないと、とても困ります。 ですから、呼ぶ方も申し訳ありませんが色々考え、厳選して、 「よしっ!! 君に決めた!!」(もう古いか?) と、アシスタントをお願いするわけなのです。 ところが……。 テンパってる時ほどアクシデントはつきもの。ましてや相手は人間ですから、思わぬ行動をしてくれたりすることもあるわけで……。 1.困ったアシスタントベスト3 ―― No.1倒れるアシスタント ―― 第三話でちょっとだけ出てきた「ブピ助」さんは、ブタ丸母ちゃんの中学生のころからの友人です。昔から漫画が大好きで、絵もとても達者。現在は会社員としてバリバリ仕事をしていますが、アシスタントとしても腕は確かです。 学生時代の漫研の友人が何人かプロとして活躍している関係で、その腕を買われ、緊急時の助っ人として呼ばれることもしばしばあります。 さてある日、ブピ助が仕事から帰ってくると、電話がかかってきました。 「はーい…あ、ウサ子! 元気〜、え? 元気じゃない? どうしたの……」 「ブピ助……助けて……」 「た、助けてって…手伝ってじゃなくて、助けて? ど、どうしたのっ!! ウサ子!」 「ネコ絵ちゃんが……」 ウサ子さんはブピ助の友達のレディース系コメディ作家。ネコ絵ちゃんは漫研の後輩です。抜群に美しい絵を描き、ホラー系の女性誌でその画力を生かして活躍中でした。 「ネコ絵ちゃん、こないだからそっち手伝いに行ってるんだよね。何かあったの?!」 「倒れたの……」 ネコ絵ちゃんはド根性もガッツもある熱烈に漫画を描くことの大好きな、ついでにちょびっと美少女な、すばらしい作家さんです。でもひとつだけ弱点がありました。 ――体が弱かったのです。 「たた、倒れた?!」 「うん、具合悪いのにムリして手伝いに来てくれたんだけど、物凄い熱で……病院には行ってきたけど、一人にはしておけないからウチで寝てるの」 「寝てるって……そっちもう締め切り過ぎてるんだよね?」 「うん、でもなんだか私もさっきから熱っぽくて……」 「え゛?!」 「原稿落ちちゃう…ブピ助、助けて」 そんな状況でも一番心配なのはまず原稿。 ――プロの鑑です なんて、言ってる場合ではありません。 そりゃ確かに、色んな意味で助けがいる窮状です。 「分かった! 今行くから待ってて!」 自分も残業続きで疲れも溜まっているブピ助。 でも彼女は義理人情に厚い姉御肌でした。 アシスタント用具に看護用品一式も揃え、夜中の町へ飛びだしていきました。 フラフラのウサ子を励ましながら、ネコ絵の看病もし、無事原稿を仕上げたブピ助。 風邪をしっかりうつされていたらしく、数日後は自分が寝込んでいました。 「……そりゃ大変だったねー」 「風邪流行ってるからブタ美も気をつけなよ。まったくさー、おかげでまた3キロ痩せちゃったよ」 「……そりゃ大変だったねー」 すごい痩せ過ぎ体形のブピ助。3キロも痩せてしまうのは一大事なのですが、電話口のブタ丸母ちゃんの眉間には、友達甲斐のない縦じわがビシッと刻まれていました(コラコラ!)。 不摂生な生活になりがちな漫画関係者。 ストレスもものすごくかかっています。 ですから、病気の話題には事欠きません 腰痛、胃潰瘍、糖尿病はもはや職業病。 作家さんやアシスタントさんの仕事明けの心不全による突然死。これも時々耳にします。 ――怖いよ〜〜! そんなこんなで、アシスタントが倒れるって事件……意外に多いみたいですが――。 クソ忙しい時に倒れられては作家はもうパニック状態。けれど真面目な良い方ほどムリしてしまって倒れるので、責めることも出来ないし……。 間違いなく「困ったアシスタント」No.1です。 ――な〜んて人事のように書いておりますが、実は当のブタ丸母ちゃんことブタ美さんも、その「困ったアシスタント」No.1の一人だったりするわけでして……。(オイ!!) …… それはまだ、ブタ丸母ちゃんことブタ美さんが新 毎回編集さんが付きっきりで監視する中、“落ちる”か“無事掲載”かの瀬戸際の作画作業。 胃に穴の開くような緊迫感――――は、無く(オイオイ!) 雑談交じりの和気あいあいとした雰囲気で、仕事はハイスピードで進められます。 胃に穴の開くのは編集さんのみ……合掌。 とはいえ、“本当の締め切り”さえ過ぎて印刷所も待機中。本当に大変な状況である事はみんなちゃんと分かっています。先生のネームが終わると、連載1話分を1晩で仕上げることのできる、本物のプロフェッショナル集団であるからこその余裕といえるでしょう。 とにかく深夜にスタジオ入りして、その時はまだ原稿用紙には下書きも入っていないのに、翌朝には原稿が仕上がってしまうのですから、最初は本当に驚きました。 そんなプロアシスタントの末席に座ってしまったブタ美さんですが……。技術の程はまだまだ、いえ、まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ…だったので、正直皆さんのような余裕などまったくありませんでした。明るい雰囲気に救われつつも、一人メチャクチャテンパッて必死に担当した作業に取り組んでいました。 しかし、やはり過度なストレスは万病の元。 ブタ美さんは人知れず体調を崩していたのです。 その時連載は佳境にはいっていました。師匠は細心の注意を払い、慎重にネームを書き進んでいます。デッドまでには少し時間があったこともあり、先生のネームが少し遅れていました。 アシスタント達はネーム待ち。けれど朝になってもネームが仕上がらないので、とりあえずみんな一度仮眠をとることになりました。 「お疲れさまー。アタシちょっと寝る前に、薬局行ってくるね〜」 「え? ブタ美さん具合悪いの? 大丈夫?」 「うん、へーき、へーき! ちょっと頭痛がするだけだから」 「そう? 薬ならだいたい揃ってるからそれ飲んだら?」 「いつも使ってるやつがあるからさ、それ買ってくるよ。じゃちょっと行ってきまーす」 と、言いながら、なにやらもそもそ怪しげな足取りでマンションを出るブタ美さん。 「は〜ヤバイ…薬局、薬局……あ! 良かったもう開いてたよ! こんにちは〜」 仕事場は高田馬場にありました。ブタ美さんの駆けつけた仕事場に行く途中の商店街は、俗に言う“ゴールデン街”風で、八百屋や薬局の他に飲食店やちょっとエッチなお店も数軒並んでいます。 そこは古びた感じの薬局でした。 ブタ美さんの声に、奥からガラガラとガラス戸を開け、おじいさんがのそのそ現われました。 「あい、いだっしゃい」 (だ、大丈夫かなこのおじいさん……。) ――おじいさんが…というか、店も商品も思いっきり古びていて頼りなく、不安をさそいます。 「どうぢたの、なにお探し?」 「あ、あの…漢方系の 膀 胱 炎 の 薬あります?」 「あ゛〜? な゛ーに゛ーがなぁ、もっかい言って」 「だ、だから… 膀 胱 炎 の 薬! ある?」 「あ゛〜〜?」 「だ・か・らぁ!!膀胱炎の薬あるかしらぁ!っって訊いてるんですけど!!」 「あいあい、気合い入ってるねえ゛おでーさん、はははは。おんなのごが、そんなごとでっけぇ声で言っちゃだべだよ、もっど恥じらいも゛たなきゃ、ひひひ」 ――叫ばせたのはアンタだろう! と、心の中でどなりつつ、ブタ美さんはおじいさんが薄暗い商品棚から選びだしてきた薬箱を手に取ります。 箱は……まあ当然そうあるべきなのですが、完全に埃もついていない新品でした。 「こでね、よぐきくから。漢方系だしね。あど、水いっぱい飲むんだよ、薬だとおも゛っでね」 「はーい、ありがと、おじいちゃん」 安心したブタ美さんは薬を手に仕事場に戻ります。 ――そう、ブタ美さんは緊張の連続でトイレの回数が減ったり、ストレスで免疫力が落ちたりしていたせいで、膀胱炎になりかかっていたのです。本格的に発病したら、病院へ行って抗生物質をもらってこなくてはいけなくります。ですから早めに漢方で直そうと思って、薬を買いに出たのです。 しかしこの安易に売薬で済まそうとした行為を、あとでブタ美さん思いっきり後悔することになるのです。 topへもどる↑ 「はー、まいったねー。異様にキャラたった店員だったね、あのじーちゃん。マンガだよ、ありゃ。今どきチャンチャンコ着てるし前歯はないし…あやしすぎだよ、まったく」 ブツブツぼやきながらマンションに戻り、早速薬を飲んで、やっと安心して仮眠をとるブタ美さん。目覚ましは三時間後にセットされています。 その日の昼、みんなで近所で昼食をとり、仕事が再開しました。 「どぉ〜もお〜、調子どぉですか〜」 「あ、ハセピーさん、こんにちはー」 担当のハセピーさんも、青い顔をしながらも必死におあいそ笑いを浮かべ、差し入れ片手に偵察にやって来ました。 しかし、ハセピーさんの笑顔はあっという間に消え去りました。 先生が仕事机の前から消えています。 仕事をほったらかしてパソコンに向かい、なにやら書き込みをしている先生の姿に、口元がかすかに引きつるハセピー。 しかし、先生はそんな担当さんの表情にも、まったく動じず、 「よっ♪」 と、ひと言挨拶しただけで、またモニターに目を移します。 「ツネ子さーん、残りのネームはぁ?」 涙目でチーフアシスタントのツネ子さんに訴える担当さん。 ツネ子さんの返事をまたず、 「できてるぞ」 ……と、にまりと笑い先生は自慢気にネーム用紙の束を頭上にかざします。 ――いばるならあと一週間早くネーム描いてよ〜! とは、絶対言えない担当さん。それでもホッとした表情になり、さっと目を通します。 「OKでーす、じゃあツネ子さん頼みますね〜」 「はーい」 苦笑交じりに、ネームをもとに白紙の原稿用紙にコマを割るツネ子さん。コマ割りの出来た原稿用紙を先生に渡し、先生が下書きをいれます。 下書きの入った原稿はすぐにアシスタントに廻され、背景、モブ、主役キャラのラフな部分に各担当者がペンを入れていきます。 先生が最後に人物の主要な部分にペン入れをすると一気に仕上げ。 消しゴムかけ→ベタ塗り→ホワイト→トーン貼りの順で完成です。 超スピードの流れ作業でみるみる原稿は仕上がっていきます。 担当さんは編集部へ戻り、ちょっ早で写植(文字)作り。 とんぼ返りで仕事場に戻ると、仕上がった原稿に写植を貼ったりの「校了」作業。 校了は普通編集部でやるのですが、今はそんな余裕はありません。 仕事机が足りないので電話台も使いながら、部屋の隅で背を丸くして写植を貼る担当さんの姿は涙をさそいます(笑)←オイ! あ、最近ではパソコンで文字を入れるようになりましたので、こういう姿はもう見られなくなっていると思います。懐かしい思いでの1コマですね♪ このケツカッチンの修羅場でも、先生はふと気がつくとパソコンに向かい息抜きしています。まさに鋼の神経の持ち主。 この図太さが、作家生命の長さの秘訣なのでしょうか? 対照的に、その姿を見るたびに胃がシクシク痛んでいるのがまる分かりのハセピーさん。こちらは寿命が縮んでいるようです。 ――合掌(笑)。 今回の仕事は、やや遅れ気味。 珍しく、足掛け3日になってしまいました。 あっという間にまた夜です。 そろそろ疲れが出てきたのか、だんだん調子が悪くなってきたブタ美さん。 さっきから数回トイレに行っているのですが、軽い尿意がとれません。 そこで、もう一回薬を飲みました。 ――30分後 「あれ? なんか蕁麻疹が出てきちゃった……」 「えー?! あ、ホントだ、何か食べ物合わなかったのかな? だいじようぶ、ブタ美さん?」 「ま、まさか俺の差し入れが原因?」 「違うと思うけど……なんだろなーこれ。とりあえずメンタム塗っとくよ」 ――さらに5分後 「ブヒ〜、なーんかちょっとぼーっとしてきたから、ちょっと30分仮眠とるね」 「うん、分かった。ブタ美さんの描くトコ今ないから、1時間ぐらいは寝れるよ」 「じゃー、お言葉にあまえて〜」 立ちあがると、妙にふらつきます。 (な、なんか変だね、こりゃ……貧血みたいな感じだけど……) 先に仮眠をとっている別のアシスタントさんの横に、寝ころぶと、横になっているのに天井がぐるぐる廻りだしているのに気がつきました。 (やっぱ、貧血かなー。でも、この蕁麻疹はなんだろね……) 目を閉じると、あっというまにブタ美さんの意識はなくなりました。 topへもどる↑ ――30分後 30分の仮眠リズムが体に染み込んでいるブタ美さんは、それでもしっかり目覚ましなしで目を覚ましました。 (あれ……まだ天井廻ってる……てか、さっきより多く廻っておりまーすだよ、へ、変だ! 絶対変だ!) ミョーにかゆい手を薄暗がりで見ると、蕁麻疹が広がりお互いにくっつき、手全体が皮2枚分ほど腫れたようになっています。 (ありゃー、ひどくなってるよ、みっともないねー。顔もこの分じゃひどい事になってそうだねー) アレルギー体質で、ひどい蕁麻疹も何度か経験しているブタ美さん、この期に及んでまだ危機感が足りません。 とりあえず、まだ尿意があるのでトイレに行く事にしました。けれど……。 (わ〜〜っ!ま、廻りすぎだよ〜!!) 立ち上がるとめまいはますますひどくなり、台風の海の船に乗っているように足元がおぼつきません。斜めに倒れ込んでしまいました。 (あ、歩けない……) また、意識が遠のきます。 (ま、まずいよこりゃ……でもなんかフワフワしてキモチいいかも〜〜) のんきな感想を残しつつ、そのまま突っ伏して意識がまた完全に無くなりました。 ――5分後 (あれ……また意識飛んでたんだ……なんなの! この症状! と、とにかくトイレに……) なんとかまた意識を取り戻し、ブタ美さんは立ち上がりました。 仮眠部屋のドアを開け、廊下に出ればすぐトイレです。 しかし、そこで記憶はとだえてしまいます。 「…… ブ タ 美 さ ん … ブタ美 さん! だいじょうぶ?! ブタ美さん!」 気がつくとトイレの前で、ツネ子さんの膝枕で横になっていました。 「ブタ美さん、救急車呼んだからね! しっかりして!」 「あれ、ツネ子さん……」 スタッフの皆や先生も心配そうに、そばでのぞき込んでいます。 「あれ、私ブッ倒れたんだ……」 「うん。ドダダーーンって、すっごい音したから飛んできたら、ブタ美さんがトイレの前に倒れてたの。…大丈夫? 吐き気はある? 息はちゃんとできる? 痛いところは? 救急隊員に伝える事はある?」 てきぱきと質問するツネ子さん。 さすがチーフです。沈着冷静、気配り万全。 「大丈夫みたい……さっきまでひどくめまいがしたけど、ちょっと落ち着いた感じだし」 起き上がってみると、今度は意識は遠のきません。 「うん、良くなってきた感じ……」 「そう? じゃあ救急車どうしようか?」 「こっちはいいから、救急車が来たら乗ってって、病院でちゃんと診てもらえ。なんかあったら大変だからな」 「はい、先生! ありがとうございます。ツネ子さんもありがとう。じゃー来るまで布団でよこになってるよ……あれ?」 私の腰の下にはタオルとビニール。 「ああ、トイレの前だったから。失禁したらこまるしね♪」 「なるほど……はははは」 さすがチーフです。泣けるぐらい気がまわります。 寝ころんで救急車を待っているうち、悪い事にどんどん回復してきてしまいました。 ――いや、これは歓迎すべきよい事なんですが、なんかこの状況だと逆に申し訳ないような気になってくるから不思議です。 深夜の東京ど真ん中。 救急病院の数は不足気味。 救急車はなかなか現われません。 「ブヒ〜〜! もう、遅いねぇ、治っちゃうよ!」 やがてマンションの廊下に慌ただし気な足音。チャイムが鳴ります。 「やっと来たよ〜〜、あー良かった! 治ってなくて」 ――あくまでのんきなブタ美さんでしたが、実はこの時彼女はまさに、デッド・オア・アライブの狭間にいたのです……。 topへもどる↑ ピン・ポ〜ン♪ 「夜分遅く申し訳ありません、出動要請はこちらでしょうか?」 「は〜い」 ――き、来たよ…ついに! ドキドキするブタ美さん。 (ど、どうしよう…やっぱ寝っころがってたほうがいいかね、それとも起き上がってた方が……。いや! ここは絶対寝てた方がいいね!) 「こちらですので」 「はい」 緊張した声の救急隊員が二名、仮眠部屋に入ってきました。 「だいじょうぶですか〜、私の声が分かりますか〜?」 顔をのぞき込みながら声をかける年配の方の隊員さん。 「はい!」 がばっと起き上がるブタ美さん。 「うわっ! ……あ、気がついてたんですか」 「は、はいすいません……」 「じゃ、脈とりますので、もう一回横になって下さい」 横になると隊員さんは脈をとり、懐中電灯で瞳をのぞき込みます。 「脈早いですね、瞳孔も少し開いてる」 倒れるまでの経過を説明し、恐る恐るお伺いをたてるブタ美さん。 「あ、あの…やっぱりこのまま病院へ行った方がいいのですか?」 「そうですね…浮腫も出てますし、そのほうがいいと思います。万が一という事もありますから」 「は、はい」 この時、ベテランらしい救急隊員の方は、病院に搬送する必要有りと判断したわけです。 けれど、隊員の方の説明がその時はまだよく分かっていなかったブタ美さん、それでもみんなに見送られて救急車に乗る事になりました。 「歩けますか? せっかくだから担架に乗ってみます?」 ―――せっかくだからって……なんじゃそりゃ。 「あ、歩きます…」 「そうですか? 遠慮しなくていいのに」 「じゃあ、僕が付き添いますので、みなさんはくれぐれもお仕事よろしく!」 担当のハセピーさんが一緒に来てくれることになりました。 「僕、救急車乗るの初めてなんですよ〜♪」 ―――オイ! 救急車にのり、横になるブタ美さん。 隊員の方は無線で連絡。 この段階で受け入れ先の病院を探します。 病院はすぐ見つかりました。 後に長男の急病で救急車を呼んだ時は、受け入れ先を決めるまで30分以上かかってしまい、その時はものすごく焦りました。 それを考えると、なんだかんだ言われていても、やはり東京の医療事情は地方より恵まれているのかも知れません。 サイレンを鳴らしながら、救急車は病院へ向かいます。 「うわぁ! 皆避けてく! きもちいいですね♪」 ―――オイ! ハイテンションなハセピー。 病院の救急搬入口で降ろされ、隊員さんが駆けつけた看護婦さんに状況を説明してくれました。 「じゃあ、お大事に!」 丁寧に帽子をとりお辞儀してくれる隊員さん。 「あ、ありがとうございます」 ブタ美さんは恐縮するばかりです。 診察室へ連れていかれたブタ美さん、お医者さんに経過を説明し、隊員さんにお医者さんに見せるようにと、言われて持ってきた飲み薬も出して先生に見せました。 「ふーん」 先生は薬の箱をちらっと見ただけで、すぐ返してくれました。 「もう歩けるの? じゃ、大丈夫だね」 隊員さんの判断とは全然違い、 ―――なんで救急車で来たのあんた? みたいな対応のお医者さん、気合いの抜けた声で看護師さんを呼びます。 「体温と血圧測って、血液検査と点滴ね〜」 「は〜い」 処置が済み点滴をするので寝かされるブタ美さん、この頃には 「なんで病院来ちゃったんだろ……」 と、後悔でいっぱいになっていました。 その時、いきなり慌ただしくなる救急外来。 「脳梗塞らしいです!!」 「先生呼んで!!」 完全にほったらかしのブタ美さん。 「ど、どうしよう……点滴終わっちゃったよ。これ、抜いちゃっていいのかな……」 静脈に刺してある針をじっと見つめます。 「抜いたら、血でるかな……出たらヤだな」 しょうがなくガラガラと点滴の吊るしてある台ごと移動し、看護師さんを探します。 「あの〜」 「あ、あなたもう帰っていいですから。ちょっと先生まだ?!」 「あの〜、これ抜いてもいいんですか?」 「抜いちゃって下さい! A先生じゃ頼りンなんないのよ! 早く連絡とって!」 「おーい、だれかてつだってよー」 これはA先生の声。 「チッ!」 (うわ〜、看護婦さんに舌打ちされてるよ、あの先生…大丈夫かな患者さん) ―――同情を禁じえないブタ美さんでした。 その方がどうなったかは、知る術もありませんが、この時の先生……思った以上にヤブだったことを、後になって知るブタ美さんです。 受付に行くとハセピーが待っていてくれました。 「あれ? もういいの?」 「うん、帰っていいって」 「ふーん、でお金持ってきたの?」 「あ、忘れてきた!」 「じゃあ、貸してあげるけど、絶対返してね!」 「ヘイヘイ…セコイね、高給取りなのにさ」 血液検査の結果と、差額医療費(保険証もなかったので)後日来院したときに……という事でブタ美さんはそのまま仕事場へ戻りました。 topへもどる↑ 「おかえりブタ美さん! ホントにもう大丈夫なの?」 仕事場のマンションに戻ると、ハセピーから連絡を受けていたツネ子さんがすぐ出迎えてブタ美さんの腕を支えてくれます。ホントによく気のつく優しい人です。ズボラな作家達はこういう方に支えられて、なんとか日常生活をこなしているのです。 「ブタ美さん、トン太先生迎えに来てるよ」 「え、ホント?」 奥の部屋から廊下へ転がるようにブタ丸父ちゃんが飛び出してきました。 「ブ、ブダ美゛〜だいじょぶかぁぁ〜〜!!」 ―――そこはホラ、新婚さんでしたから(笑)。 「大丈夫だから帰ってきたんだよ。それよりトンちゃん……どうしたの! 真っ青な顔して」 「ここに着くまで色々…エグ…変な事考えちゃって……エグ、エグ。もー心配で心配で……、そしたらなんか頭がクラクラしてきて…ウグッ…ぎもぢ悪ぐなっできて……ゲホッ」 「キャー!ま、待ってトン太先生! ちょっとカメちゃんシロちゃん、バケツにタオル!」 ―――手のかかる夫婦でスミマセン……。 さすがにこらえてモドシはしませんでしたが、相変わらず顔面蒼白のトン太先生。これ以上夫婦でご迷惑をかけないうちにと、ブタ美さんとトン太先生は家路につきました。 ブタ美さんの担当の作画部分はチーフのツネ子さんが代わりに全部描いてくれます。それがどんなに大変か分かっているブタ美さんは、申し訳なさでいっぱいでした。 締め切りは延ばせませんので、短い時間に倍近くペン入れ作業が増えてしまう事になるのです。 休む暇もなく超スピードでのペン入れ。 終わる頃には腕や手がしびれ、ペンダコは真っ赤に腫れ上がってペン軸が当たっただけで、激痛が走るようになってしまいます。 締め切り間際に、仕事の邪魔までたっぷりしてしまったし……。 健康管理も仕事のうち。 倒れるアシスタントは、大迷惑です。 「ゴメンなさい、先生、みんな…もう二度としません……」 電車の中で涙ぐむブタ美さんでした。 「―――痛て! ど、どうしたのトンちゃん!」 真っ青な顔のトン太先生が、ブタ美さんの上着を力いっぱいガシッと掴んだのです。 「め、めまいがするよ〜〜」 「そりゃアタシのセリフでしょうが〜! ちょっと! しっかりしとくれよ!!」 2人は電車が揺れるたびに、ヘロヘロ左右にヨタつきながら、やっとの思いで家に帰り着きました。 …… ――翌週。 「よかったブタ美さん元気になったみたいだね! 顔色もすっかり良くなったし。心配したよ、も〜」 「うん、ごめんね〜〜ツネ子さん、大変だったでしょう」 「アハハ、そりゃーもーね。まあ、貸しにしとくから。私が倒れたらその時は頼むね♪」 「え〜〜! そりゃもちろんその時は頑張るけど、まだとてもツネ子さんの代わりは務まらないよ〜」 「それじゃ困るからね。練習して」 「ウ、ウン……鋭意努力いたしますデス」 ―――さすがにチーフ。厳しいひと言です。 でも、これは切実なチーフアシスタントからのお願いなのです。 みんな無理に無理を重ねていますから、いつ倒れるか本当にまったく分かりません。 事実数ヶ月後、今度はツネ子さんが体調を崩してしまい、ブタ美さん地獄のようにテンパルはめになったのですから……。 「ブタ美さん、そんなに恐縮しなくていーよ。実はさ、俺も救急車呼んでもらったクチでさ♪」 「え?! カメちゃんも〜! ホント? 初めて聞いたよ」 「俺はさー、結石でさ。尿管の。すっげー痛くて死ぬかと思ったよ。で、救急車だよ〜ん♪」 「だよ〜ん♪じゃネーぞ!コラ!いいかげんにしろよ、お前ら。この商売体が資本だぞ!」 「そういう先生も入院した事あるでしょ」 「……あ、そうか、オレもか! ははは」 ―――漫画描きって…ホンットに不健康な稼業です。 「ところでさ、ブタ美さんの病名なんだったの?」 「そうそう! それがさー、ひっどい話でさ! 聞いてくれる……?! 実はあの病院……っていうか、私を看た医者ヤブかもしんない!」 topへもどる↑ 「なにかあったの?」 びっくりして顔を上げたツネコさんですが、高級玉露を注ぐ手元は狂いません。良い香りが部屋中に溢れています。 「うん、あの後すぐ差額料金返金の手続きに、またあの病院行ったんだけどね……」 市役所提出用の書類を受け取りながら、ブタ美さん看護婦さんに質問しました。 「で、私何の病気だったんでしょう?」 病院の窓口の看護婦さんは、無愛想に答えます。 「先生じゃないと分かりません」 「――でもあの、血液検査とかしたんですけど……」 「先生今日はお休みですから、予約してまた来て下さい」 「ちょっとここ、自宅から遠いんで、通えないんですが……」 「じやあ、ご近所の病院でまた検査して下さい」 「検査結果の書類とかいただけないんですか?」 「お出ししていません」 「………」 病院って、やっぱり大嫌いです! 検査料払ったのに、なんにも役に立たないって何それ! せめて「申し訳ありませんが…」の一言が会話の間に挟まっていれば、もうちょっとハラもたたないのですが……。 受けた治療は、ブドウ糖の点滴。 診断らしきものは、先生が問診中に言っていた 「多分貧血だと思うけど」 のひと言だけ。 治療とも言えない処置だけで差額料金が戻ったとしても一万円近くふんだくられたんですから、納得いきまん。 でも、倒れた原因が何だか分からないと怖いので、相模原にある大きな病院へ検査に行きました。 ブタ美さん、仕方なく再度血液検査も受けます。 担当の先生は若くてちょっといい男。 (ラッキ〜♪) 倒れた時の状況説明をし、先生に例の薬を見せました。 「で、どうなんでしょう? 倒れた原因は?」 「そりゃーさあ……」 「は、はい……」 「悪いけど分かんないよ」 「はあ〜〜?!」 「だってもう日にちたってるもん。その時診なきゃサ、分かんないよ」 「そりゃそうですけど……」 ―――医者もやっぱり嫌いです! 「ただね、確かに貧血はあるよ」 先ほどの血液検査の結果を見ながら先生は話を続けます。 「アンタ見かけによらず血沈低いね〜、ヘモグロビン値も普通の人の半分しかないよ」 見かけによらずって……この先生ひと言多いのが欠点のようです。 「あと、このその時飲んだって言ってた薬だけどサ……前の病院の先生何か言ってた? 治療はどんな治療してもらったの?」 「貧血だろうって言って点滴してもらって帰りましたけど……」 「ありゃりゃ! すぐ帰されちゃったの! なんにもなくて良かったね〜! 下手すりゃ死んでたとこだったよ!」 「えーーーっ?!」 「全身浮腫が出ていて、意識不明にも陥ってるんだから、アナフィラキシー・ショックを起こしてる可能性が大きい。だから病院で経過観察しなきゃ危険なのに…… 帰しちゃうとはびっくりだね」 「〜〜〜〜ひーーーん」 「いいかい、皮膚全体に浮腫が出てるって事は……医学的には外部に接している面は全部皮膚なんだよ。胃壁とか気管もね……気管、気道にも浮腫が出てるって事なんだ。つまりひどくなると気管が塞がって息が出来なくなる可能性がある。しかもふらついているって事はまだショック状態から抜けていない、いつまた倒れるか分からない状態だって事なんだから……帰しちゃうなんてあり得ない状況だよ」 ベテランの救急隊員さんの判断は正しかったのです。 そしてあの看護婦から舌打ちされてた先生は…… 間違いなくヤブ医者です! ―――怖いよ〜〜! 「そ、それであの…アナフィラキシー・ショックって……」 「薬でアレルギー反応が出た可能性があるね」 「か、漢方薬なのに?」 「漢方でももちろん人によってアレルギーは起こすけど……この薬さ、抗生物質入ってるからこっちがアヤシイね」 「え〜! 漢方薬下さいって言って買ったのに……」 ―――あの爺ちゃん〜! やってくれました! 「漢方生薬も入ってるけど、ほらこれ、○×酸って書いてあるだろ、これ抗生物質。しかし珍しいよこのタイプの薬! 普通薬局じゃ置かないンだけどね〜。どこで買ったの、これ?」 「あの……高田の馬場の○×通りで…」 「え?! 駅のすぐ近くの? ああそこ知ってる! 学生時代よく通ったな〜♪ いい店あるんだよねー、かわいい子そろっててポッキリでぇー」 「………先生」 この先生ろくでもねぇ! 「アンタ、お店のねーちゃんに間違えられたね! ○×通りご用達の品だよ、たぶん」 つまり、いろんな病気用ってか? たしかにあの時間、仕事終わったばかりですって感じで買いに行きましたから、間違えられてもしかたないのでしょうが……。しかし薬局も店を出している場所によって商品が違うとは……1つ勉強になりました。 「もうこのタイプの抗生物質は使わない方がいいから、今度から薬出してもらう時はコレ覚えておいて先生にちゃんと言いなさいね」 「分かりました。……じゃあ私アレルギーだったんですね?」 「だからさ、そりゃ知らないって。オレがその時診たわけじゃないんだからさ♪」 「………」 「気になるんだったらアレルギー検査受けてね。後は? 具合の悪いトコある?」 「倒れた時ぶつけた頭がまだちょっと痛いぐらいです」 「なに? 頭打ったの? ちょっと見せて」 「は、はい……」 「うわー! でっかいタンコブ!こりゃ痛そうだね! はははは♪ ハイ、もういいよ」 「もういいよって…先生、それだけ?」 「だってオレ内科だもん。湿布とかしてもらいたかったら、外科でもう一回並んでね〜。あ、それとも一応レントゲン撮っとく?」 「結構です!」 医者なんて、病院なんて 大っ嫌いですっっ〜〜〜!! 「そう? じゃあ貧血の薬だけ出しとくね。あと詳しい血液検査の結果教えるからまた来週来てね〜! お大事に♪」 ―――また来るんかい!! お医者さんの態度は最悪でしたが、最初の病院とは違いこの先生、実力は確かなようでした。診断は信用しても良いのでしょう。 貧血のお薬のおかげて、体調は万全。 やっぱり健康第一です。 「良かったわね、ホントにひどい事にならなくて。そうか、あの病院は薮ね。要チェックだわ!」 さすがやり手。しっかりメモをとるツネコさんです。 「今晩は〜、ネームの調子どうですかぁ」 今週もハセピーが偵察にやって来ました。 「ハセピーさんご苦労様〜」 「あ、ブタ美さん! お金返してね」 「人の顔見るなり、いきなり取り立てかいっっ! 具合どう? とか、ないんかい!」 「ハセピー、セッコーい! 高給取りなのに」 「堅実派なんです!」 こうして今週も、のほほんと修羅場が始まります。 漫画家の先生方 アシスタントの皆さま 編集さん、印刷所の皆さま ――どうぞお体には十分気をつけて下さいね! ≪今回の教訓≫ 健康第一! +++ 倒れるアシスタント.END +++
―― つづく ――topへもどる↑ 「困ったアシスタントベスト3」 ――その2 言い張る です♪ お楽しみに! |