「ブタ丸トントン・ジュニア版中学生用」          作・ゴリラマン/監修・茜梨生  とある国の「けもの村」という村に、 ブタ丸という名のブタがいた。  どんなブタかというと、とにかく  性格が悪く、  根性も悪く、  頭も悪く、  もーどうしようもない イヤなブタだった……。  いつもぐーたらして勉強もしないので、学校ではいつも0点ばかりとっていた。  さてある日、ブタ丸が家でテレビを見ていると、ニュースがはじまった。  「もうすぐサバイバル大会が開催されます! 皆さん、ふるってご参加ください!」  「ふん、くだらねー、そんなの別にいーや」  ものぐさなブタ丸は、尻を掻(か)きながら寝ころんで興味なさげだ。  だがテレビの続きを見ていると、アナウンサーが興奮ぎみに大ニュースを読み上げはじめた。  「なんと!! スポンサーの発表によると、優勝賞金5000000000000000000000000(五穣)円〜〜〜〜ん!!!! これは、すっごーーーーーーいっ!!」 「な、なぬーーーーーーーっ!!」    ブタ丸は飛び起きた。  「5000000000000000000000000円だとーっ!?  それだけあれば、いくらぐーたらしたって、一生遊んで暮らせる ぜっ! よーし、絶ってー優勝してやるっ!」  ニュースの情報では、大会には5人のチームで参加するらしい。ブタ丸はさっそく仲間を集めることにした。  「賞金に目がくらんで集まってくるアホ共を地獄送りにするには、強力なメンバーが必要だ。 ……まず、奴のところへ行ってみるか。 さすがのオレでもあまり顔を合わせたい相手じゃないが、万が一敵にまわったらヤッカイだしな」  ブタ丸は町外はずれにある  墓地の方に歩き出した。  墓地の裏の枯れ木林の横手に、古いボロ洋館が建っていた。  ブタ丸は、林の手前でたち止まった。  洋館のそばの枯れ木にとまったカラスたちが、グワッ、グワッと、鋭い警戒の声をあげ騒ぎたてている。  「……先客がいるのか?」  物陰から様子をうかがっていると、どっかのバカそうなゴリラが、洋館の玄関に立っているのが見えた。  ドンドン扉をたたき大声でわめいている。  「サービス持ってきたよーゴリ!  新聞とれゴリ!  とらねーとゲチョングチョンの  グニグニにして、  ママにもわかんねーツラに  してやるゴリよーっ!!」  「新聞の悪徳勧誘か……バカが!」  バカそうなゴリラはやっぱり本当にバカで空気がよめないらしく、扉を押し開けると怖がる風でもなく、肩をゆすりながら、不気味な気配のただよう室内へ入っていってしまった。  「ぎゃあああああー!!」  程なく館の中から悲鳴が聞こえ、  やがて静寂が訪れた。  ブタ丸は洋館に近づき、開けっ放しの戸口からおそるおそる中をのぞいてみた。  さっきのゴリラの屈強な巨体が、妙な角度でねじ曲がって、暗い廊下にブッ倒れている。  ブタ丸は用心深く  一歩足を踏み入れた。  床板がギーッと  いやな音をたててきしむ。  廊下の奥の、  上り階段のつくる暗がりの中に、  何かの気配があった。  ブタ丸はハッと緊張して  闇に目を凝らした。  そこには……奴がいた!!  奴の名は、  ホラーキューピー!  額に「死」の一字を刻んだ  おどろおどろしいキューピーが、  深紅の邪眼を光らせ闇の中に立っていた。  ブタ丸は一瞬心臓が飛び出しそうになったが、持ち前のクソ図太い神経ですぐ立ち直り、でかい態度で左手を上げ、かたちばかりのあいさつをした。  「よう、じゃまするぜ」    「……ゴリラの次はブタか、  今日は珍しく客が多い日だな……」  仮にも力だけは類人猿最強を誇るマウンテンゴリラを相手に、バトルした直後にもかかわらず、ホラーキューピーは呼吸一つ乱していない。  まるで何事もなかったかのように、暗い廊下にたたずんでいた。  ただ筋肉質の胸に斜めにはしる深い傷の跡だけが、彼の壮絶な半生を無言で語っている。  ブタ丸は思った。  奴なら、いける!  「おいホラーキューピー、  話があるんだが」    「なに?」  「今度のサバイバル大会で優勝すると  5000000000000000000000000円がもらえるらしいぞ」  「な…なぬーーーーー?!」  「でる?」  「でるでるでるでるっ!」  ……外見の割に俗っぽいキャラだぞ、  ホラーキューピー。  お金にでも、こまっているのだろうか?    「でるためにはオレのチームに入らなきいけないんだが、入る?」  「O・K」  ホラーキューピーが仲間になった!  「よし、今度は象の馬場ールの家に行くぞ。体のデカさとパワーじゃオレの知るかぎりじゃアイツが一番だ」  しばらくして、  二人は馬場ールの家に着いた。  馬場ールの家は、真っ赤な屋根のメルヘンチックな家だが、象の一家の住む家なのでやたらデカイ。  デザインはメルヘンでも  可愛げもへったくれもない  …てゆーか、  そもそも全体が視界に収められないので、デザイン意味なし、だ。  「おーい、馬場ール!  ……ん? いねーのかな〜〜」  誰もいない居間では、つけっぱなしの大画面テレビが、観る人もないのに昼メロ女優の大熱演を映し続けていた。  「もう、行っちゃったらしいよ」  ホラーキューピーがテーブルの上の書き置きをみつけ、ブタ丸に知らせた。  「なにーーーっ!!」  「さばいばる大会に行きます。  ボクの分のごはんは、  あとでチンして食べるから、  れいぞうこに入れといてね♪  ママへ 馬場ール」  「あいつ〜〜〜、賞金ひとりじめする気だな!  大会で会ったらたたきのめしてやる!!」  強力な戦力を仲間にすることができず予定の狂ったブタ丸だが、気をとりなおし次は友達のエジモンの家に行くことにした。  エジモンの家は町の準工業地区の、何てことはない住宅地の真ん中あたりにある。  ブタ丸はありがちな住宅地の、  ありがちな古くも新しくもなく、  大きくも小さくもない、  とにかくふつーの一軒家の前を、行き過すぎかけて、あわてて駆け戻った。  表札には江寺田(えじた)と書かれている。  「おっといけねー、ここだ、ここだ!  あんまり特徴ない家だから、  いっつもつい行き過ぎちまうぜ」    「おいブタ丸、本当にこんな家に  強い奴が住んでいるのか?」  「ああ、家も本人も一見特徴がなく頼りないが、あいつはいざとなったらやる男だ。  ーーーいろんな意味で、な」  ブタ丸は口に手を当て、二階の窓へ声をかけた。  「モン吉君♪ あそびましょー♪」  エジモンはブタ丸の幼おさなじみらしい。  アナクロな誘い文句に、すぐに返事が返ってくる。  「あ〜と〜でー」  「……おい、あとでって言われてるぞ」   「大丈夫だ、まかせろ。モン吉君♪  バナナあるからあーそーぼー!」  「………おい」  引き気味のホラーキューピーをよそに、二階の窓がスッと開き、茶色いサルが顔をのぞかせた。  エジモンだ。  エジモンは、確かに特徴がないといえば、特徴のない顔をした、ただのサルなのだが、  妙に間抜けな顔で、  その間抜けさ加減が変に心に残る、  微妙な意味で特徴のある、  妙なサルだった。  上下に泳ぐ眼球も、平凡な顔に非日常感を与えている。  「ブタ丸かー、いまいくねー」  エジモンを仲間にするのは簡単だった。 バナナを一本やったら、すぐに仲間になった。  エジモンがバナナをくれたお礼として、仲間を二人紹介してくれた。  エジモンが手招きすると、家の中から妙なモノが二体現れた。  その姿を見てホラーキューピーは戦慄した。  「な、なんだあれは!  まさに、日常の戸口から  招じ出された非日常……  もしやこのサル、次元使い?」  ブタ丸の顔も引きつっている。  「……おい、エジモン、こいつらなに?  特にこっちの車輪みたいなのにハゲたばーさんの生首がのっかってるヤツ!」    「え? ああ、こっちのはオバーQ君だよー」  「オバーQ? なんなんだよ」  「なにって? オバーQは、オバーQだよー」  「……いーかげんなヤツだな。  じゃあこっちの、  全身タイツで顔にPって描いてあるだけのなんかあやしげな感じの奴は?」    「こっちはね、ピエール君」  「ピエール?」  「そう、ピエール君」  「………だ〜か〜らぁ、   名前とかじゃなくー、  どーゆー生物か知りたいんだがね、モン吉君!  どーゆーカテゴリーに属する生き物なのっ!!    一応知的生物?  エイリアン?  そもそも生き物?!  ……お、おい!  なんかオバーQのあたま、  カパっ  ーーて開いたんだけど……。  な、なにか出てきたぞ  おいっっっ!!  なんかのたくってんぞ!!   あっ!! こらっっつつ!!   寄って来ンじゃ  ね〜〜〜っ!!  きもっ!!  わーーっ!! こっち来ンなーーーっっっっっっ!!!!」  「そんなにいやがんないでよーブタ丸ぅー。  みんなで仲良く協力しないと、サバイバル大会で優勝できないよー」  「んな事言ってもムリ! 絶ってームリ!!  こいつらキモすぎ!  エジモン、お前だけ来な! 行くぜ」  「戦力になるなら考えんでもないが……どう見ても強そうには見えんしな」  「ちょっと待ってよー」  いつもながらの緊張感のない声で引き止めるエジモンを、無視して帰りかけた二人の行く手に、いきなりチンピラ達が立ちふさがった。  「待てっ!!  ちょいと今の話を聞いちまったんだが、  お前らサバイバル大会に参加するんだって?  そういう事なら見過ごせねーなぁ!」  「オレ達も参加するんでねー。メンバーがそろう前にツブさせてもらうぜ!!」  男達はうすら笑いを浮かべながらも、場慣れした様子で、それぞれ物騒な武器を取り出し構えた。  ロケットランチャーのような物まで持ち出している奴もいる。  賞金の額が額だけに、彼等も気合の入り方がハンパじゃないようだ。  「ちっ、面倒な……」  「オレがやろう」  「あ、待ってホラーキューピー君。ちょうどいいや、ボク等が戦うよ」  エジモンがひょこひょこ二人の前に割って入ってきた。  上下に泳ぐ瞳がクルッと回転する。  だが、これから戦おうという気迫はまるで感じられない。  「……大丈夫なのか?」  「まかせてー」  のんびりとした返事にも、やはりいまいち緊張感がない。  本当に彼にまかせて大丈夫なのだろうか?  エジモンはクルンと向きを変え、チンピラ達と向かい合った。  オバーQとピエールがその左右に立つ。  キュルキュルと車輪を軋しませながら現れたオバーQと、怪しげな黒い全身タイツ姿のピエールの姿を見たチンピラ達に動揺がはしる。  「な、なんだこいつら?」  「なんでも構わねぇ、やっちまうぜ!!!!」  こういうとき脳細胞が少ない輩は、  あまり考えずに行動するのが常だ。  そして往々にしてその結果は  ロクなことにならない。  「オバーQくーん、この人達たべちゃってもいーよー♪」 「え……?!」  チンピラ達の胸にやっとイヤーな予感がわき上がってくる。  だが、もう遅過ぎた。  この三人と向かい合った時点で、とっとと逃げておくべきだったのだ。  頭の悪い人間に共通の《想像力の欠如》というやつは、常に非常時に決定的な判断ミスを起こさせる。  みんなはちゃんと勉強して、想像力をきたえておこうね! 「オバ〜〜〜〜」  側頭部にある蝶番を支点に、  オバーQの頭髪部分がぱっくりと開いた。  中には脳は無く、  なにかウニウニとした  触手の様な物がうごめいていた。  触手はいきなり投網のように伸び広がり、  男達に襲いかかる。  バリッ、ニチョ、ベキッ、  グチャ、ブチッ、ガハッ   ……ぎゃああああっ!!  ひえぇぇぇぇっ……!!  (描写不能な気色の悪い惨状がくりひろげられています)  「……わー(ブタ・裏声)」  「……あーあ」  男達はなんともいえない表情を顔に張り付かせたまま、オバーQの体内に引き込まれ消えた。  どこに行ったのかはオバーQだけが知っている。  「つぎはピエール君、おねがいねー」  エジモンが緊張感のない、のんびりとした口調で、ぶっそうな指示をだす。  目の前で繰り広げられた惨状にもエジモンはまったく動揺していないらしい。  まあ、そうでなければ、オバーQと《おともだち》などにはなれないのだろうが……。  「ラジャー! 機関銃掃射!!」  四次元チャックでも付いているのか、ピエールは全身タイツのどこからかМ134ミニガンをグワッと引き出した。  もう一人のチンピラに向かって容赦なく構える。  ミニガンと言ってもМ134は6連に束ねられた銃身をもつ、重量18キロ、全長9000ミリの重機関銃だ。  『ターミネーター2』で、Tー800が使っていたでっかい機関銃がこれである。  「罵詈罵詈弾装填!」  「ちょっ、ちょっと待って……」  残ったチンピラは真っ青になって後ずさった。  ドガガガガガガガーーーッ!!  「ぐわ〜〜〜っ、うっ! な、なんだ?」  弾丸(だんがん)が命中したチンピラは、頭を抱(かか)えて泣き出した。  「そ、そんな…ひ、ひどーーいっ、     あんまりだ〜〜〜!!        ウッ、ウエ〜〜ン」  「罵詈罵詈弾は、撃たれると弾一発につきひと言、その人間が今までに言われた悪口が脳に打ち込まれる恐ろしい弾丸だ。  ろくでもない奴ほど大ダメージをうけるのだ」  「どうせオレなんて、オレなんて……」  男は座り込み、うずくまってまったく動かなくなった。  ーー合掌(がっしょう)。  「おい、ブタ丸とやら」  硝煙(しょうえん)くゆるなか、スッとまたどこへともなくミニガンをしまい込み、ピエールはブタ丸の方へ振り返った。  「仲間にはなってやるが、あまりナメた口はきくなよ。オレをオバーQとはいっしょにするな。  オレはまともだ」  まともかどうかはあやしいモノだが、服装のセンス以外は、たしかにかなりクールでカッコいいキャラのようだ。  しかしやはり正体不明なのにはかわりない。  「と、とにかくかなり使えるようだな」  「……ああ」  ブタ丸は思った。  キモくても正体不明でも構わねェ、  これで勝てるっ!!   でも、あんましそばに行くのはやめとこーっと……。  「よし、メンバーはそろった!! 行くぞ!!」  「おーっ!!」  三十分後、一行はバトルステージ行きの飛行機が待機しているはずの飛行場に着いた。  ターミナルへと歩いていると、5人の横にシャトルバスが停まり、いっせいに乗客がおりてきた。  一般の乗客の後から、大きな武器らしき荷物を抱えた、あからさまに怪しげな五人組のグループがあらわれた。  「おい、オレ達のように大会に出る奴のようだな」  「ああ」  ブタ丸は愛用の黄色い半ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、ちらりとそちらを一瞥した。  「ピエール、撃て」  「ラジャー」  今度は小型のイングラムМAC10が2挺、するりとピエールのタイツの下から現れた。  「爆睡弾装填!」  ドガガガガガガガ。    「ぐばっ!!」  「ぐぼっ!!」  不意を突かれた五人は、なすすべもなく  爆睡弾の連射の前に次々と倒れていく。  ちなみにこの弾は、字の通り撃たれた相手を爆睡させる弾丸だ。  被害者は三日は目を覚まさない。  「ひっ、ひでェぞお前ら……」  ドガガガガッ。  「ぎゃあす!!」  「ターゲット撃破」  クールに一言言い捨て、ピエールは両腕の銃をクルリと回し、服の下へ消した。  「おいーっ、な、なにしてんだよー」  やっと気付いたエジモンがびっくりして叫んだ。  しかしやはり声に緊張感はない。  それにしても機敏なはずのサルにしてはエジモンの反応はひどく遅い。  アイアイかミツユビナマケモノ並のスローモーさだ。  「ん? ライバルつぶしだよ」  「おまえひきょうだな〜〜〜」  「うるせーだまれ! とにかく勝てばいいんだよ」  どうにも最低なブタである。  「サバイバルは、もう始まっているというだけのことだ。もういい、早く行くぞ!」  「ああそうだな、行こう」  5人は空港に用意されていた、参加者用特別便に乗った。  日も暮れはじめたころ、ようやく試合会場の小さな島にたどり着いた。  その島は無人島らしく、あたりには何もない荒れ地と岩山が広がっているだけで、会場らしきものは何も見当たらなかった。  それでもあちこちから集まってきた何組もの参加グループらしい連中が、うじゃうじゃと荒れ地にたむろしていた。  ブタ丸は武者震いしながら気合いをいれる。  「よし! こいつら全員ブッつぶすぞ!!  5000000000000000000000000円は  オレ達ブタチームのものだー!!」  「おーーーっ!!!!」  その声につられて、他のグループもあちこちで雄叫びをあげ上げはじめた。  何か怪しい……  などと考えつくだけの脳味噌がある者は、  ここには一人もいないらしかった。     2 ブタ丸サバイバル篇  夜空にサーチライトをひらめかせ、オレンジ色のホバーが現れた。  ものすごい土ぼこりを巻き上げながら、参加者達の頭上で停止しホバリングをはじめる。  汎用一人乗りホバーのようだが、装甲が強化され、妙に物々しさを漂(ただ)わせた機体だった。  真っ赤なタキシードに身を包んだ派手な男が、気取った様子で操縦席から立ち上がった。  男の姿をみたとたん、参加者達の間にどよめきがおきた。  ゲラゲラうれしそうに笑い出す者もいる。  なんのつもりか、男は巻きグソののったヘルメットをかぶっていたのだ。  顔面は『ウ』と書かれたマスクで覆われている。  「出場者の皆さん今晩は! 私は司会者の…」  「黙れっ!!」  「沈めっ!!」  「糠に沈めっっ!! このウ○コヤロウ!!」  司会者はマイクの音量を最大にして、ヤジに対抗する。  「ご静粛に!   私のファッションに関するツッコミは一切受け付けません。  これから大会の進行について説明をいたします。  ちゃんと聞かないとルールがわかりませんよ!」  しかし、やはりどうしようもない連中ばかりが集まってきているらしく、参加者達は、せっかく司会者が説明しているのに皆聞こうともせず、罵声を張り上げ騒ぎつづけた。  待つということができないので、苛立っていたし、目上の者の演説は、ジャマをする習慣がついているのだ。  まったく親のしつけがなってない。  「へぇ〜〜、こいつウ○コヤロウって名前なのかー。変なのー」  すっとぼけた奴も混じっている。  「ちっが〜〜う!! 私の名前は……」  「さっさとしろ〜〜、ウ○コヤロウ!」  「ギャハハハハハッ! そーだそーだ!!  てめーの名前なんざどーでもいいっ! 早くはじめやがれ!!」  「うう…うう…それでは大会のルールは……って、  どーせ説明したって聞いちゃいないし、  こいつら理解するのーみそ無さ気だし。  めんどくさいや、まあ……そこらへんで戦って下さい」  タキシードの男は完全にやる気をなくしているようだ。  「おい! それじゃわかんねーよっ!!」  「んだぁ〜〜、こるぁあ!! ちゃんと説めーせいっ!!」  殺気立つ参加者達の足もとを、いきなりホバーに装備されたレーザー砲が焼く。  さすがにたまらず皆後ろに下がった。  「とにかくおのおの自力で、この島のどこかにある先のステージに進むための  大扉 を探しだし、時間までに扉の下に集まって下さい。  しかし第2ステージに進出できるのは10チームだけです。  これが事実上第1ステージのバトル・ロワイアルとなります。それでは」  男はそう言い捨てると、罵声の飛び交うなか、サッとホバーをひるがえし上空へ逃げだしてしまった。  残された出場者達は、腹立ちまぎれにさっそくあちこちで乱闘をはじめた。  あまり利口な問題解決法ではないが、困ったときにはとりあえず暴れるのが彼等の習性なのだ。  ブタ丸は戦いには参加せず空を見上げ、司会者のホバーの飛び去る方向をみさだめていた。  扉を見つけもしないうちに、こんなところでつぶし合うのはまっぴらだった。  お勉強方面ではまったく働かない『ブタ丸脳』だが、こんなときだけは、抜け目なく活発に活動を開始するのだ。  「おいみんな、行くぞ」  「行くってドコ行くのさー」  「とりあえずホバーを追う」  ブタ丸は仲間に声をかけ、さっさと乱闘場と化した荒れ地を抜け出し、歩きはじめた。  しかしすかさず、集団から離れていくブタ丸達に目ざとく気付き、殺気立った気の荒いグループが追いかけてきた。  「おい、てめーら! 抜けがけはさせねーぞ!」  グループの中の、ひと際巨大な象男が大声でどなりつける。  「ん? あ、お前馬場(ババ) ール!!」  「げっ、ブ、ブタ丸?!」  「てめぇ〜! 抜けがけしたのはお前だろうがっ! 友達をさしおいて別の奴らと組みやがって、よくもうらぎったな!」  「だ、だって、お前と組んでロクな目にあったことねーんだもん! すぐズルして何でもひとりじめするしっ!!」  いきなり話題が妙な方向にころがった。  日ごろの行いが悪いと、いざというときこういうことになるのだ。  「……何だと?」  『ひとりじめ』という言葉に反応して、  ホラーキューピーの背後にゆらりと妖気が立ち昇る。  やはり、かなりマジで賞金をアテにしているようだ。  「こないだの大食いチームバトルで優勝した時なんか、結局オレ牧草一年分しかもらってねーし!!」  「主食だろ? 象の! いーじゃん、文句ねーじゃん!!」  「オレだって最高級黒部和牛霜降りがいーもん!! 絶対!!」  「それは聞き捨てならんな」  ホラーキューピーの顔色が変わった。  こんどは『黒部和牛霜降り』に反応したらしい。  「オレは仲間を裏切る奴はゆるさんぞ……」  ピエールがチャッとマグナムの銃口をブタ丸に向ける。  「オバ〜〜〜」  オバーQの触手もブタ丸に向かってするりと伸びた。  これはかなり怖い……。  「な、なんだよ君たち……ボクがみんなの賞金、ひとりじめしたりするわけないじゃないかぁ♪ バ、馬場ール! なーんてこといいだしやがる!! このバカ象!!」  ブタ丸の攻撃。    「とんこつビーム!!」  「ぎゃーっ!!」  説明しよう。  ブタ丸は自らの体内の超高カロリー背脂を瞬時に燃焼させることで、超高温熱線ビームを目から発射できるのだ。  これがとんこつビームだ。  しかも発射後はあたりに豚骨スープのような香ばしい匂いが漂い出し、食欲増進効果もある、ちょっとお得なビームである。  馬場ールは真っ黒焦げになって倒れ込んだ。  「みかけ倒しな象だ……つまらん」  「いやピエール、それだけブタ丸のビームの威力がものすごいのだ。  口だけでの男ではないようだな、ブタ丸……」    「てめーらよくもっ!」  「次はオレの番だな」  馬場ールの仲間達が襲いかかってきた。  「見よ! 瞬殺の天使拳!」  しかしホラーキューピーの神速の拳が走り、男達は何が起きたかも分からないまま次々に地に臥していった。  この男の強さも、ハンパじゃない!  「よし、準備体操は終わりだ。  ザコの相手はこれぐらいにして出発するぞ!」  「おう!」  お互いを認め合い、友情が芽生えたような錯覚の風が心地よく吹こうとしたそのとき、空を見上げながらヒョコヒョコ後方から歩いていたエジモンが、馬場ールの体に蹴つまずいて、スッころんだ。  くるくるっと丸い目が踊る。  「あれーブタ丸ー大変だー、こんなところで馬場ールがコゲてるよー。どうしたんだー?」  ブタ丸はこけた。 こいつはこいつでホントにある意味すごい。  「……エジモン、お前、今まで何見てたの?」  「何ってホバーだよー」  「ああ、そう……でもまあ、そりゃ助かるぜ。でかしたエジモン!  で、ホバーはどっちへ行った?」  「んー、スピード速いからわかんなくなっちゃったぁ」  「ああ、そう、そうだよな……、ムリ言ってスマン。……は〜〜っ」  全身にわき上がる妙な疲れをふりはらい、ブタ丸達はホバーが飛んでいったと思われる岩山の方向へ歩きはじめた。  すっかり夜もふけてしまい、ブタ丸たちは空にかかった満月の光だけを頼りに、瓦礫の道を歩き続ける。  しばらくすると遠くに、わずかばかりの木の生えたまっ黒な林が見えはじめた。  ピエールがまわりを見まわし、先頭のブタ丸に声をかけた。  「おい、ブタ丸、ここ前も通らなかったか?」  「そんなことはないだろう」  しばらく黙々と歩くと、  また前方に黒い林が見えはじめた。  ピェールが騒ぎだす。  「おい、絶対ここさっきも通ったぞ!」  「だ、だまれーっ!!」  ブタ丸は真っ赤になって大声をあげた。  逆ギレだ。  冷や汗がピュピュピュピューンとブタ丸の頭上にとびまくっている。  「えーーっ?!、ま、まさかブタ丸ぅ〜〜……」   「おいブタ丸ちゃんと答えろよ」  「ああ、わかったよ、正直に言うぞ  …道に迷った」  「まじィ?!」  3人は声をそろえてさけび、ぼう然とたちすくんだ。  どこまで行ってもあたりは同じような岩ばかりで、道らしいものもなく見通しも悪い。  ブタ丸達はどちらから来たのかさえ、もう分からなくなっていた。  「ブタ丸、これからどうする?」  「オレにいい考えがある」  と、ピエールが言った。  「ホントか?」  ピエールは道ばたの小枝をひろって、棒占いをはじめた。  「………」  パタンと棒は倒れ、左の崖の先の、  見るからに危険がいっぱいそうな、  ボコボコガスが吹き上がる沼を指し示した。  その先にはいまにも崩れそうな石橋が一本、沼を跨いでかかっている。  ひゅうううっと、  風が5人の前を吹き抜けていった。  「ふーざけるなぁぁぁぁぁっ!!」  あまりにまじめなピエールに、ついツッコミそびれていたブタ丸が、やっと我にかえって怒鳴り声をはり上げた。  しかしピエールは涼しい顔をしている。  「まあとにかく進んでみろって」  ピエールの素顔はタイツに覆われうかがい知れないが、なにか根拠になる自信でもあるのか、どうみてもふざけているようには見えなかった。  ブタ丸は意を決し、ホラーキューピーの肩をポンとたたいた。  「……よし、ホラーキューピー頼んだぞ」  「え?! オレー?」  「とにかく行けーっ!!」  「おい、本当に大丈夫なのか?」  「大丈夫! オレの棒占いにまちがいはないはずだ!」  「え?!」  「とにかく行けって!」  「ああ……」  どうにも納得はいかない様子だったが、  とりあえずホラーキューピーは橋を渡りはじめる。  皆は息を飲み、様子を見守った。  「ん?」  その時ブタ丸は、橋の親柱に付いているボタンに気がついた。  「なんだ、このボタンは?」  押せとばかりに矢印が下に貼り付けてある。  あからさまに怪しげなボタンだった。  こんなもの普通なら、仲間が乗っているときには絶対に押しはしないだろう。  「……押しちゃえ!」  ーーーおいいいぃぃぃっ、こらっ!!!  ポチッ  ーーあ〜〜あ……。  すると石橋中央の上部の崖に  吊り下げられていた巨大な岩が、  グラグラと揺れはじめた。  「あ……」  ゴンッ!!!  岩は折り悪く、真下を歩いていたホラーキューピーの脳天を直撃した。  ついでに衝撃で石橋も真っ二つになり、ホラーキューピー共々沼へと崩れ落ちる。  「こんなはずじゃなかったのになー」  ……どんなはずのつもりだったんだ。  「なにいってんだよー! 早く助けなきゃ!   オバーQ触手を出してー」  とエジモンが叫ぶ。  「オバー!」  オバーQの触手が沼に伸び、ホラーキューピーをからめ捕った。  ブタ丸達はホラーキューピーを助けて引き返した。  「いやーまじ危なかったなー、  トラップまであるとはおもわなかったぜ」  ボタン押したのはお前だろう!  だが、ブタ丸はとぼけ通すつもりらしい。  「もう油断するなよ、ホラーキューピー」  「過信が油断を招く。心しろ」  「……おい、お前ら」  ホラーキューピーの全身にムカマークが浮かび上がった。  「えーなにぃ? ホラーくんもバナナ欲しいのー? はい、どーぞ♪」  オバーQにごほうびのバナナをあげていたエジモンは、バナナを半分ホラーキューピーにも分けてあげた。  「……どうも」  なんだか怒る気力を吸いとられ脱力したホラーキューピーは、頭のコブをなでながら座り込み、とりあえずもらったバナナを口に運んだ。  それにしても、あの大岩の直撃をくらってコブで済んでいるのだから、つくづくすごい男である。  「これからどうするー?」  「どこにワナがあるかわからない以上、下手に動けねーな」  5人は座ったまま考え込んでしまった。  「困っているようですね」  いきなり、5人の頭上から声がした。  「その声は、ウ○コヤロウ!」  声の方を見上げると、切り立った崖の陰から、さっきのホバーが現われた。  真っ赤なタキシードの男が、満月を背に腕組みをして立ちあがり、ブタ丸たちを見おろしている。  例の司会者だ。  「だからぁ、わたしの名前は……  ……まあいいです、死に行くものに語る必要はありませんね、  ククククク。  言い忘れていましたが、この島は入り組んだ迷路のようになっているんです。  そしてトラップもあちこちに仕掛けられています。  制限時間近くになると、自動的にそれらのトラップが発動いたしますのでお急ぎ下さい。  安全地帯はありません。  隠れていてもムダですよ」  「な、なんだと〜〜〜!!」  「どうか迷わぬように、  お命をお大事に。ハハハハハ」  「……ピエール、やれ」    ドンッ!  「あ〜〜」  対物狙撃用マクミランМ87Rから発射された、50口径   ぶっ飛ばし弾・怒   がみごとに命中し、ホバーはどこかへぶっ飛ばされた。  司会者が生きているかどうかはわからない。  この弾は狙撃者の怒りの度合いで威力が変わるのだ。  「おい、あそこ煙が上がってるぞ、行ってみようぜ」  その煙の場所に行くと、  司会者が乗っていたホバーが墜落して燃えていた。  どこかかなり遠くに飛ばされたのか、司会者の姿は見当たらなかった。  「この機体は司会者のだから、何か積んであるかもしれないぞ」  「オバーQ、荷物を引っ張り出せ」  「オバー」  オバーQが触手でまだ燃えていない荷物を、機体から引きずり出した。  「おい、ナビゲート地図を見つけたぞ。トラップの位置も表示されている」  とピエール。  「よし、これでトラップにひっかからずにすむな。  おいピエール、まずどっち行けばいい?」  「えーとまず……」  ピエールは地図に付いているキーを操作した。  「後ろ、右、前…右、左…」  地図の通りに進んで、5人はやっと第二ステージに続く大扉の場所までたどり着いた。  「うわぁーーっ、すっげーっ!」  ブタ丸は目の前に広がる光景に、思わずポカンと口を開けた。  高い岩山を登りきると、いきなり眼下に100メートル以上もあるダムのように巨大な扉が現れたのだ。  扉は真新しく、岸壁と岸壁の間に据えられている。  表面にはゴシック風の不気味なレリーフが一面に彫られていた。  賞金の額といい  この巨大な建造物といい、  どうやら大会のスポンサーの  財力はとんでもないものらしい。  扉の前には、先に到着したいくつかのチームのメンバーがたむろしていた。  たくさんいたライバルチームが、  もう10チームぐらいに減っている。  遠くから何か爆発音と  悲鳴のようなものが聞こえてきた。  手をかざして見てみるが、真っ暗で何が起きているかは分からなかった。  だがその悲鳴が  発動しはじめたトラップに掛かったチームの  断末魔の声であることは、  アホなブタ丸にさえ容易に想像がついた。  「いくぞ、ブタ丸。そろそろタイムアップだ」  「あ、ああ……」  瓦礫に足を取られて転ばないように気を配りながら、5人は坂道を下り扉に向かって走る。  そのとき急に視線を感じ、ブタ丸は立ち止まった。  「なんかヤな感じだせ。  うなじのトン毛が逆立ってる……」  「どーしたのー、ブタ丸ー? まにあわなくなっちゃうよー」  「賞金パーにする気かブタ! 急げ!」  「うぉぉぉぉっ、そーだった!! 賞金、賞金!!  行くぜミラクルぶた走りっ!!  とぉぉぉりゃぁぁぁっ」  「うわーブタ丸速いなー、待ってよー」  せっかくの野生の勘の警鐘も、  残念ながら欲に目のくらんだブタ丸にはとどかなかったようだ。  ブタ丸が立ち止まった場所の空に、  小さなコウモリが飛んでいた。  いや、よく見ると  それは本物のコウモリではなくロボットだった。  ぶざいくな血吸いコウモリを模した顔面は、目が一つ目のレンズになっている。  ロボットコウモリは、島のあちこちをヒラヒラと飛び交っていた。  そして映像をある男の場所へとどける。  男はブタ丸のトン毛をそそけ立たせた  おぞましい邪気を豪華な室内に充満させながら、  映像を映す巨大モニターに見入っていた。  「ククククク……、  生き残りのしぶといゴキブリ共!!!!  お前達はゴキブリらしく  共食いで消えてもらいましょう!!  ……たっぷり楽しませてもらった後にネェ。     クククククククッ」  その男、  本大会のスポンサーは、  ブランディーグラスを手に闇の中で、  ひとりサディスト特有の、  残忍な忍び笑いをもらしていた。  門の奥から陰鬱なサイレンが鳴り響き、  第一試合の終了を告げた。  地鳴りのように軋みながら巨大な門が開く。  「やっぱり他のチームは道に迷った末に……」  ブタ丸は険しい表情で、皆に続き門をくぐった。  脱落したチームの安否が心配である。  そして、嬉しげに門の中に駆け込んでいく  勝ち抜きチームのメンバー達の未来も同様に……。  「とりあえず、第一関門はクリアだ」  「うん! やったねブタ丸、みんな!」  五人はにこやかにハイタッチを交わす。  オバーQも頭を開け、触手をブタ丸に向かって伸ばした。  しかしブタ丸は慎重に後ろに下がり、触手とのハイタッチを辞退した。  でも気を悪くしておこっていたらちょびっと怖いので、おあいそ笑いを浮かべながらおそるおそるオバーQの顔色をうかがう。  しかし、触手を手遊びのように、うにうに絡ませたりほどいたりしているオバーQの顔からは、感情が何も読み取れなかった。  ひょっとしたら顔の部分は本当の顔ではなく、実はただの擬態なのかもしれない。  (こんなのに賞金分けるのイヤだな……)  ブタ丸の心の中にダークブタ丸が、  ジャンガジャンガジャンガジャンガジャーン、と  アンガールズの決めポーズをとりながら降臨した。  (よし、決めた! 友情ごっこは今だけだ。  スキをみつけてひとりじめをねらう!!)  おいおいおい……。  とことん腐れ外道なブタである。     3 トーナメント篇  「あーそれにしてもうまい朝飯だったなー」  「夕ご飯もごーかだったしね」  「お前ら喰い過ぎだぞ、試合にひびいたらどうする」  「あんたもな」  「すまん、つい……」  ホラーキューピーのキューピーらしからぬ筋肉質なボディは、食べ過ぎのためぽこんと出た丸いお腹の幼児体形になりはてていた。  だがまあ責めるのは酷というものだ。  ブタ丸たちはいちおう庶民レベルの暮らしをしているが、ホラーキューピーの生活は住んでいるボロ家からも想像できる通り、清貧を極めている。  わかりやすく言えば、  ようするにド貧乏ってことである。  たまにはおいしい物も、そりゃ食べたいよね。  とにかく宿泊施設で出された食事は、見たこともない超豪華なフルコースだったのだ。  まるでこれが最後の晩餐だ、とでもいうかのように……。  ブタ丸たちは感激の涙を滝のように流しながら、食事をむさぼり喰った。  しかしピエールだけは、武器のメンテがあるからと、早々に部屋へ戻ってしまっていた。  食事をとらなかったので、タイツの下の素顔は謎のままである。  まあ、たとえタイツを脱いでいたとしても、食事に夢中のブタ丸たちは気付きもしなかっただろうが。  食事のあとブタ丸たちは、大会2回戦の試合会場に連れていかれた。  そこは島の南端の砂丘の真ん中だった。  砂の上にブタ丸の背より頭一つほど高い  二つの将棋盤のような舞台がつくられ、  中央が50メートル四方の  広い闘技場になっていた。  右の闘技場の上には、昨日とは別の司会者が待っていた。  「みなさん、よくここまでやって来ました。私は司会者の……」  男は前の司会者にクローンのようによく似ていた。  だが、前の司会者は頭が巻きグソのような形だったのに対し、この男は……。  「おー、チ○コだ!! 次の司会者はチ○コ野郎かっ!!」  「ギャハハハハハ!! チ○コだ、チ○コだ!!」  「おっす、チ○コ野郎、よろしくなー!」  ……下品でどうもすみません。  「では2回戦目のルールを説明します」  司会者の額にはでかいムカマークが浮かんでいる。  「ですが現在11チーム残ってしまったので、ここで1チーム消えてもらいます。  じゃあ……ゴリラチームに  消えてもらいましょうか」  「なんだとー!! ふざけるなーっ!! いみわかんねーぞーっ!!」  「うるさいです。顔がきもいから消えてもらいます」  カチッ  ドッコーーン  司会者が手に持ったリモコンのスイッチを押すと、ゴリラチームの立っている床がいきなり爆発した。  「ぎゃあああああっ」  ゴリラチームは遥か海上まで吹き飛ばされ、キラリと光り見えなくなった。  いくらバカ丈夫なゴリラ達でも、  安否が心配である……。  「さあ、10チームになったので、さっさとトーナメントをはじめましょう。  まずトーナメント表を発表します」  司会者はゴリラ達の方へは一瞥もせず、淡々と表を読み上げはじめた。  ぞっとするほどの冷淡さだ。  命というものになんの価値も感じていない様子だった。  「ひでーぞっ! こらーっ」  まったくだ。血も涙もモラルもない。  「どうせぶっ飛ばすなら、サルチームにしやがれっ」  「バカゴリラなんか消えてもいみねーじゃんよー!!」  「多数決とれよーっ! ちゃんと!」  ーーーそこかい、ひっかかってるのは! まったく、どいつもこいつもろくなモンじゃありゃしない……。  「うるさいザコどもだ」  サルチームのリーダーサル丸は、  腕組みをしながらハナで笑った。  「消える順番が少しかわるだけだろう」  金色の体毛に鋭い眼光。  黒いスウェットのハーフパンツをはいた尻には、エジモンのように長い尾は生えていない。  つまり同じ真猿亜目(しんえんあもく)に属する霊長類でも、サル丸はエジモンよりはるかに高度な知能をもつ類人猿なのだ。  学校のテストではいつも90点以上とっている。  正式に言うと、  動物界・脊椎動物門・  哺乳綱・サル目・  霊長目・真猿亜目・  狭鼻下目・ヒト上科・  ヒト科・バトサル亜科・  Chinco chinco  和名キンイロテイオウザルの  サル丸である。  ちなみにゴリラチームたちニシローランドゴリラの分類は、  動物界・脊椎動物門・  哺乳綱・サル目・  真猿亜目・狭鼻下目・  ヒト上科・ヒト科・  チンパンジー亜科・  Gorilla gorilla gorilla (ゴリラ・ゴリラ・  ゴリラ=学名Gorilla gorilla gorilla)  となる。  以前テレビ番組の「トリビア」でもやってたね。  テストにはでないが、何かの時に智識をひけらかせば賢そうにみえるから、ぜひ覚えておこう。  日本の動物園にいるのは、ほとんどこのニシローランドゴリラだよ。  エジモンの分類は……  役にたたないので、書くのはやめておこう。  サル丸は色々なバトル大会で優勝している、高い知性と戦闘力をかね備えた最強のサルだ。  人(猿)望があり、優秀な子分をたくさん従えている。  サルチームこそ本大会の優勝候補といえるだろう。  司会者の冷ややかな声がマイクから響き渡る。  「Aブロック第1試合はスーパーギャラクティカチーム対デンジャラスチーム。  第2試合ブタチーム対Busu(ブス)チーム。  第3試合カバチーム対トリチームです。  Bブロック第1試合犬チーム対きもチーム。  第2試合ウ○コチーム対サルチームとなります。  対戦方式は先に3勝したチームの勝ちとなるポイント制とします」  「最初の相手はBusuチームか。楽勝だぜ!」  Busuチームは、チームワークに定評のあるデカ顔族のグループだ。  ブタマンに手足が付いただけのような、まぬけな姿をしてはいるが、重量を活かした集団押しつぶし、以外とスピードのあるバウンド攻撃など、強力な技をもっている。  チームバトルは得意だが、個々の戦闘力はやや低めなので、一対一のバトルとなるとブタ丸たちがわずかに有利かもしれない。  「それではさっそくトーナメントを始めてもらいます。  まずAブロック第1試合、  スーパーギャラクティカチームV・Sデンジャラスチームですが、  デンジャラスチームはまだ会場に来ていないので  スーパーギャラクテイカチームの不戦勝とします」  「あ、デンジャラスチームって今朝ボクたちとはり合って、大食いしてた人たちだね」  「フッ、腹でもこわしたか。ザコい奴らだ」  ブタ丸はなんども大食いバトル大会で優勝している大食いキングだ。  馬場(ババ)ールなどの大食い仲間たちといっしょに大会に参加すると、後にはごはん粒ひとつ落ちてはいない。  まさにゴキブリ泣かせの意地汚さである。  あまり自慢にはならないが……。  「まあ、消える順番がすこしかわっただけだ」  ブタ丸は腕組みをし、ブヒッとハナで笑った。  サル丸を意識しているらしいが、  ハナの穴がデカイので含み笑いにはなりようもなかった。  「続いて第2試合、  ブタチーム対Busu(ブス)チームの試合を行います。  参加選手はAブロック闘技場へ集まって下さい」  ブタ丸たちは闘技場下の選手席に集まり、作戦会議をはじめた。  「まず、だれを出す?」  「よしまずオバーQを出そうぜ」  「そうだな、オバーQまかせたぞ!」  「オバ〜〜!」  ……簡単な会議である。  闘技場中央の開始線へと  Busu・AとオバーQが歩み出す。  「それでは試合開始!!」  キュルキュルと車輪を軋ませ開始線のところに来たオバーQの姿を見たとたん、Busu・A選手のまんじゅうの生地のように白い顔が青ざめた。  大きなピンクの唇がポカンと半開きになり、よだれが垂れる。  「な、なんだこいつは? なんかすっげーキモっ!」  オバーQは不気味な土気色の  シワくちゃな顔をゆがめ、  紫色の唇を引きつらせニマッと笑った。  Busu・A選手の全身が鳥肌立った。   「こ、怖くなんかないぞ!  お前なんか5秒で倒してやるぜ」  「フフ……バカが! オバーQの恐ろしさを知らないようだな。  オバーQ! やっちまえ!!」  「オバーーーッ!!」  《ラジャー、オバーQミサイル、ロックオン。コウフクシナケレバ、2秒後ニハッシャスル》  オバーQの体のどこからか、ナビゲーションボイスがひびき、  攻撃を宣言した。  「あの声いったいどこから出てくるんだ……?」  変なところで感心しているブタ丸をよそに、オバーQの容赦ない攻撃がはじまった。  カパッとオバーQの頭部が開くと、  いつもの触手ではなくミサイルが飛び出してくる。  なんか粘着質で糸をひく  イヤな感じのミサイルだ。  ドドドドドドドドッ  オバーQは、バケツいっぱいの  ナマコをぶちまけたような音とともに、  大量のミサイルを、Busu・Aに浴びせかけた。  「のぎゃああああっ!!」  ミサイルは次々爆発しつつ、  ヌタつく液体をあたりに飛び散らせる。  Busu・Aは全身スライムのような  粘液まみれになって倒れ込み、  ぴくりとも動かなくなった。  いや、粘液にからみつかれ、動けないのかもしれない。  「ひぃぃぃっ、なんかすっげーヤなやられ方だぁ〜〜〜」  Busu・B、C、D、E選手達は抱き合って震え上がった。  「Busu・A選手戦闘不能。オバーQ選手の勝ち!  さあ、ブタチーム1ポイント獲得です。  それでは両チーム、次の選手を出して下さい」  「おい、次はだれを出す?」  「オレが出る」  「そうか、じゃあ行ってこいホラーキューピー」  ……ホントに簡単な作戦会議だ。  少しは脳ミソ使えよブタ丸。  「次はホラーキューピー選手対、Busu・B選手です!!」  ホラーキューピーとBusu・Bは開始線のところ向き合った。  「次のヤツはキューピー族の戦士か。まともなヤツでよかったぜ」  オバーQの後だと、さしもの妖気漂う異能戦士ホラーキューピーも、まともに見えてくるからすごい。  「腹ごなしに遊んでやろう。かかってこい」  ホラーキューピーは深紅の瞳を鋭く光らせ、緋色のパンツをたくしあげた。  大事な部分に銀糸で  『男』  と縫い取りのしてある、  はいてるだけでなんとなく力のみなぎる戦闘用勝負パンツだ。  「フフ、余裕かましていられるのも今のうちだ。お前酔拳って知ってるか?」  「酔拳?」  「酔拳とは酔っぱらいの動きをして変則攻撃する技だ。だがオレの酔拳は実際に酔っ払いになって攻撃するのだ!!  どうだ、すごいだろう!!」  「何?」  ……いや、それ、なんか間違ってないか?  「いくぞ〜〜〜っ!」  「やれっ! Busu・B!!」  Busu・Bは投げ込まれた日本酒の一升ビンをパシッと受け取ると、ラッパ飲みで一気に飲干した。  「プッハ〜〜〜、よしもう1本!」  グビグビ、グビグビ。  「……」  「プッハ〜〜〜、よしっ、さらにもう1本!」  グビグビ、グビグビ。  「むぁだまだ、いくずぉぉぉ〜〜」  グビグビ、グビグビ。  なんだかBusu・Bの顔色が、  どんどん悪くなっているようなのだが、  だいじょうぶなのだろうか。  「ねーまだ?」  ホラーキューピーはおとなしく、小指でハナをほじりながら待っている。  Busu・Bの体がぐらつきはじめた。  ドタッ。  「…………あ」  「おーーっとブスB選手飲み過ぎで失神だーーっ!!」  やっぱ、こいつもアホの子だ。  気持ちのよい青空の下、  Busu・B選手は仲間に引きずられてリタイアしていった。  みんなも気をつけよう。  大人になってもお酒の一気飲みはぜったいしちゃいけません。  急性アルコール中毒で死んじゃうこともあるからね。  「バーカ」  言い捨ててホラーキューピーは席に戻った。  「よっし!」  ブタ丸は小さくガッツポーズをした。  「これでブタチーム  2ポイント獲得!!   ブスチームはもう後がない!!」  「おい、次はだれを出す?」  「オレが出る」  「おおっ!! 今度はピエールか、行ってこい!!」  勝ちを確信したブタ丸は、  ホクホク顔でピエールを送り出した。  「3回戦目はピエール選手対Busu・C選手です」  結束の強いチームだけに、意識を失ったままの仲間を背に戦うBusu・C選手の目には涙がにじんでいた。  「仲間のかたきをうってやる!!」  いや、自爆だから、さっきのは。  「フフ……えらい鼻息だな。  だがキサマはオレには決して勝てない」  「何だとえらそうに、全身タイツ男が!  そんなの着てるヤツはみーんな変態だぁっ!!」  「……変態、だと?」  クールなピエールの雰囲気が豹変した。  「このすばらしいフィット感、機能性、芸術性!!  何をとっても最高にして完璧な全身タイツ!  それを身にまとう者の、  どこが変態だぁーーーーっっ!!!!」  いるんだよね、全身タイツマニアって。  ディープすぎちゃってよくわからない世界だけど。  ピエールの声に呼応して背中から何かが発射され、背後でドガガンと物凄い爆発が起きた。  戦隊ヒーロー番組のような無意味に多大な火薬量の大爆発だ。  お約束の3色のカラーケムリも立ちのぼる。  「わーすごいね、ピエールくん! かっこいー♪」  エジモンは瞳をクルクルまわし、むじゃきによろこんでいる。  ピエールは腕時計のボタンをピッと押した。  「いくぞ、スーパーピエールロボ!!」  戦隊モノっていえば、巨大ロボットだぁーねぇ、やっぱ……って、 なんぼなんでもそんなのアリか?  ゴゴゴゴゴ……  地鳴りが起き大地が割れ、  地中から巨大ロボットが現れた。  それにしても毎度のことながら、  いったいどこから出してるんだろう?  ロボットはガンメタリックカラーで、ピエールによく似た全身タイツ風のぬらりとしたシルエットをしていた。  「おーーーっと、いきなり巨大ロボットが現れた!!」  司会者の声も興奮気味にうわずっている。  ピエールがひらりとロボットの頭に飛び移ると、頭部のハッチが開いた。  ピエールはロボットのコックピットに乗り込んだ。  「説明しよう、このロボットはスーパーピエールロボだ!! 行くぞ!!」  「おいぃぃぃぃっ、こらっ!! 『行くぞ』じゃないぞぉ!!  しかも、ぜんっっっぜん説明になってないしっ!!」  「巨大ロボットに乗るなんてひきょうだーーっ!」  Busuチームのメンバーはブーブー大騒ぎだ。  「ロボットまで全身タイツかよっ! この変態!!!」  ーーーーあ、そのセリフヤバイかも……。  「るせっ!! だまれっ!! ピエールロボ・ガトリング!!」  ドガガガガガガガガガッ  ほらー、地雷踏んだ。 Busuチームは、怒り狂ったピエール操縦するロボットに、あっという間に全員ボコボコにやられてしまった。  「……参りました」  「Busu・C選手サレンダー!  ピエール選手の勝ちーっ!!  これでブタチームは準決勝進出です。  ……あ、いえ少しお待ちください  トリチーム、カバチームがこの試合を観て恐れをなしたか  相次いで棄権いたしましたので、  ブタチームの決勝進出が決まりました!!」  「イャッタァ♪ ラッキー!!」  楽して勝つ、が信条のブタ丸は大喜びだ。  サンバステップをふみながらガッツポーズをとる。  「……なさけない奴等だ」  ホラーキューピーは不満顔だった。  「棄権だと? ふざけるな!」  島の側の海上に浮かぶ豪華客船。  ここにも、もう一人怒りに手を震わせている男がいた。  監視カメラからバトルを観戦していたスポンサーである。  「なぜ戦わんクズども! ゴミが命を惜しんでどうする!」  男は高級ソファから立ち上がり、  インターフォンのスイッチをオンにする。  「ライドアーマーを出せ! 会場に行く!」    4・ファイナルバトル篇  サクッと軽い音を立て、砂地に棒がたおれた。  真剣にその棒を見おろしていたピエールの、眉間のタイツ地にスッと皺が刻まれる。  「どうしたのー、ピエール君?」  「……不吉な卦がでている」  昨日の棒占いは冗談かましたわけではなかったらしい。  しかし、なぜ棒占いでそんなことまでわかるのか?  謎の多い男だ。  隣のBブロック闘技場から、けたたましいサルの歓声が上がった。  「おっ、どうやらBブロックでも決勝進出チームが決まったようです。  サルチームです!!  決勝はブタチームVSサルチームで行われます!!!」  「ちっ、やっぱりサル丸のとこが残っちまったか」  「勝つ自信がないのか、ブタ丸」  「フザケろ!   勝ち目のない勝負はしない主義だぜ、オレ様は!」  ーーー威張って言うことじゃないだろう。  「この最強メンバーが負けるはずがないっ!!」  他人まかせかい……。  「サル丸に1ポイントとられても、残りのサルはザコいからな。  ほかのメンバーで十分とりかえせるぜ!」  司会者は説明をつづける。  「なおこの決勝バトルは、先に1ポイント取ったチームが勝ちとなる最終戦です。  準備が整いしだい試合をはじめますので、  アナウンスがあるまでそのままお待ち下さい」  「ゲッ、聞ィーてねーぞ、そんなん!」  「大将戦ということか」  ブタ丸はあわてた。  「う〜〜〜ん、誰を出そうかな〜〜。  もう、使ってないのはエジモンしかいないもんなー」  ブタ丸たちは円陣を組んで座り、マジメに作戦会議をはじめた。  おー、はじめて脳ミソ使うか、ブタ丸。  「サル丸はマジ強いからなー。  オバーQの触手はサル丸のスピードだとよけきられてしまう恐れがある……。  出すならホラーキューピーかピエールだが……、  オレが一度も戦わないってのもマズイよなー    (賞金ひとりじめしづらいし、な)  ……ウ〜〜ン」  ブタ丸は両手で頭を押さえた。  早くも脳ミソがオーバーヒートしはじめたらしい。  日ごろまったく使ってないからなー。  「大将戦なら、出るのはオレだろう」  ホラーキューピーがポキポキと指を鳴らしながら立ちあがった。  「なにを言う、1番強いのはオレだ! オレが出る」  ピエールも立ちあがる。  「オバー!」  オバーQもまだ戦いたそうだ。  『オバー』じゃよくわからないが……。  「まってよー、ボクまだなにもしてないよー。ボクも出たいよー」  エジモンまでのんびりした声で言いだした。  「リーダーはオレだからオレが戦うのが当然だろう。オレの強さをみせてやろう」  「幼児体形は見学していろ。だいいちリーダーはオレだ!」  「なんだと」  ホラーキューピーとピエールがにらみ合う。  「ちょ、ちょっとみなさーん、リーダーはオレですよー、  『ブタ丸チーム』でしょ?」  ちょびっとムカつきながらも、ブタ丸が仲裁にはいる。  だがみんなブタ丸には目もくれない。  「ブタは」  「だまってろ!」  「オバッ!」  ーーープチッ、ブタ丸は切れた。  「トンコツ火災旋風(かさいせんぷう)!!!!」  火災旋風とは、大地震などであちこちが同時に火事になったとき発生する、炎の竜巻のことだ。  炎のエネルギーが干渉し合い合体して  巨大な火柱となる恐ろしい現象だ。  ブタ丸は皮膚に分泌させた高カロリー背脂を四方に飛び散らせ発火させることで、人工的にミニ火災旋風をつくりだすことができるのだ。  もちろんこれも香ばしいかおり付きの、  ちょっとお得な感じの技である。  炎はホラーキューピーたちを黒コゲにした。  だが、ついでにブタ丸もコゲていた。  炎の中心にいるのだから当然といえば当然なことだが、これがこの技の最大の欠点だった。  「どうだ、まいったか!」  あんたはどうなんだい。  「わかったか!!!  オレが最強!  オレがリーダーだ!!!」  「……まあ、いいだろう」  「お前の戦い、みせてもらう」  「……オ〜バ」  決勝はブタ丸VSサル丸の  リーダー戦だ!  勝つのはどっちか?!  「あ……あ、ボクの出番が……な〜い」  と、エジモンはひざを落とした。  「ただいまより決勝戦を始めます!   代表選手はBブロック闘技場に集まって下さい」  Aブロック闘技場は、ピエールロボが大暴れしたため使用不能になっているのだ。  ブタ丸たちは、Bブロック闘技場へ移った。  闘技場に現われたブタ丸たちの姿を見ると、観客席からいっせいにブーイングがあがった。  サル丸の子分のサポーターたちだ。  闘技場がジャングルになってしまったかのような錯覚に陥るような、けたたましいサルの吠え声が会場中にとびかった。  「あーウッセー、ウザッ!」  「黙らすか?」  ピエールがするりと暴徒鎮圧用ガス弾の装填されたガス銃を取り出す。  「やめてよーピエール君、みんなボクと同じサルなんだからー」  むこうは類人猿だけどね。  ブタ丸たちに続いてサル丸が、チームの仲間を引き連れて闘技場に現われた。  サル達の大歓声が沸き起こる。  サル丸は片手を挙げてサポーター達に応え、ニヤニヤしながらブタ丸のそばへやってきた。  「よう、ブタ丸。オレの相手はお前か?  めずらしいな、お前がこんな場面で自分でバトルするなんて。  ザコの相手しかしないのかと思ってたぜ」  白い歯を見せ爽やかに微笑みながらも、ボスザルらしい見下した態度でブタ丸を皮肉る。  ブタ丸は片眉を上げ、  サル丸の挑発的な視線を受け流した。  「仲間のカオをたてる主義でな。めだちたがりやのお前とはちがうのさ」  実は二人は同じ学校に通っている同級生なのだ。  他の大会で顔をあわせたこともあったのだが、直接対決するのはこれがはじめてだった。  「ほーう、あいかわらず口だけは達者だな。  期待してるぜ、たのしませてくれよ! ハハハハ」  サル丸は仲間とともに控室へ消えた。  「……強敵だな、オーラが出ている」  「ブタ丸とはキャラちがうよねー」  「ほっとけ! いくぜ!」  ブタ丸はふてくされた態度でパンツの後ろのポケットに手を突っ込んで歩きながら、胸に密かな闘志を燃やしていた。    どこからかパンパンと花火があがり、  Queen(クィーン)の『We Will Rock You』が大音量で会場に鳴り響いた。  ラメのスパンコールがしこたま付いたド派手な衣装に着替えた司会者が、音楽とともに闘技場中央の奈落からせり上がって現われた。  「サバイバル大会ファイナルバトル!!  優勝賞金  5000000000000000000000000円  手にするのはどのチームだぁ!!」  「もちろんサルチームだっ! ウッキー!」  「ウッキー! サル丸ーー!!」  「ウッキー! サル丸ーー!!」  「ウッキー! サル丸ーー!! ファイト〜〜!!」  サル丸チームのサポーターは大盛り上がりに盛り上がっている。  ブタ丸たちは完全にアウェイ状態だ。  「ご静粛)に! 本大会スポンサーの  尾金 持太造(おかね もちだぞう) 様のごあいさつです」  ツッコミどころ満載なまんまな名前だが、だれひとり声をあげなかった。  尾金 持太造の乗る大型ライドアーマーが、手に持っているモノに目をうばわれていたためだ。  それは見たこともない量の札束の山だった。  「むずかしい話はよしましょう。さあ!!!  これが5000000000000000000000000円です!!  これが欲しければ戦いなさい!!  私を満足させなさい!!」  「レディース&ジェントルマン、  イッツア、ファイナル・バトーーール!!!!  サル丸V・Sブタ丸!」  バババババン、と会場に花火があがり、レーザー光線が踊る。  「レッツ、ファーーイト!!」  決勝戦が始まった。  ブタ丸とサル丸は向かい合った。  「ウッキー! サル丸ーー!!」  「ウッキー! サル丸ーー!!」  「ウッキー! サル丸ーー!! ファイト〜〜!!」  サル丸の子分達が声の限りをふりしぼり声援をおくる。  「ったく、ウッセー生き物だぜ、サルってのは」  うっとうし気に耳の後ろをカキカキしながらも、ブタ丸はするどい眼光でサル丸をにらみつけた。  「これに勝てば賞金5000000000000000000000000円は  オレのモノ!!  ぜってー勝ぁぁぁつ!!」  「オリャアアア!!!」  ブタ丸が先制攻撃を仕掛けた。  「真正面からくるか、芸のないヤツ。  くらえ! バナナの皮ッ」  すかさずサル丸がブタ丸の足もとにバナナの皮を投げる。  ブタ丸はすっ転んだ。  どんなときでも、バナナの皮を出されたらころんでみせるとは……、  さすが一流の芸人魂!  お約束ってやつやね。  「いって〜〜、よくもやったな〜〜!!」  ……おい、マジころびかいっ!  「怒りのブタ丸パーンチッ!!」  ころびながらもいつのまにか間合いをつめていたブタ丸は、  身をひるがえし……  もといコロコロ転がし、  ボディの弾力を利用して下から跳ね上がるような、  全体重をヒヅメにのせた  超強力パンチをくり出した。  パンチは間一髪パンチをよけたサル丸のアゴをかすめた。  ちぎれたサル丸の金毛が宙を舞う。  ブタ丸は続けてビームを放つ。  「トンコツビーム!!」  スタタンッと、大きく後ろにトンボを切ってビームをよけたサル丸は、  ウェストバックからまたバナナの皮をとりだした。  「バナナ八方手裏剣!! おりゃーーー!!」  あさっての方向に飛んだようにおもわれた手裏剣は  ブーメランのように旋回し  八方からブタ丸におそいかかる。  「なんの! ハイ♪   キック・トントン・キク・トントン  ウンパ! ハッ」  ブタ丸はみごとなサンバステップで、バナナ手裏剣をことごとくよけきった。  「チッ、よけられたか……」  ブタ丸はプリッとおケツをだし、  アッカンべーをしながら、  サル丸におしりぺんぺんをした。  サル丸の頭部がムカマークだらけになる。  「……まずは褒めてやろう。  だがもうこれまでだ!  オレには必殺技があるのだ!!」  その言葉を聞いた仲間のサル達に動揺がはしる。  「アニキ、もしかしてあの技を……  やめろアニキ!  その技を使ったら相手の命まで奪ってしまう!!」  「な、なに?!」  「貴様はもう終わりだーーーっ!!  スーパーギャラクティカ  カンチョー!!!!」  「カ、カンチョーッ?!」  ブタ丸は思った。  カンチョーはいやだ!  トイレで地獄をみるはめになる。 「おおおおおおおおおおっ!!」  全身にすさまじい闘気をまとい、  人さし指だけ伸ばし組んだ指先に  全エネルギーを込め、  サル丸がつっこんでくる。  「ヤ、ヤバイ!!  そ、そうだ……」  ブタ丸はパンツの中から、  朝食の時ちょろまかしてかくしてあった、 おやつ用のバナナを取り出した。  「おいサル丸! これを見ろ!」  「そ、それは  スペシャル・スウィーティーバナナ!!  ウッキー!  くれ、くれ〜〜」  あ〜あ、シリアスに決めてても、やっぱサルはサルやねー。  「よし! 今だ!  必殺技スーパーブタ丸 ・トンコツパーンチ!!!!」  トンコツパンチとは、  背脂を燃やした超高温火炎を  拳にまとわせた  ブタ丸の必殺パンチである。  ちなみに『スーパー』は、  その時の気分で付けているだけで、  付いていたからといって、  特に威力に変化はない。  「し、しまった! くそっ!!」  カッ!!  ズガガガガーーーン  サル丸は炎のパンチをモロにくらい、  燃えながら空へ飛んでいった。  「サル丸選手リングアーウト!!  ブタ丸選手の勝ちです!  よって優勝はブタチームです!!」  「やったーーっオレ達の勝ちだー!!  これで5000000000000000000000000円は  オレ達のものだーーー!!!!」  「や……やったー、やったーーーっ!!」  クールなピエールも声が裏返り気味になっている。  「こ、これでビンボーから脱出できる  ……う、う、う」  あ、ホラーキューピーの目に涙が……。  やっぱビンボーはつらかったのね。  「すごいねー! ブタ丸♪」  エジモンはむじゃきによろこんでいる。  「オバー」  オバーQは……、やっぱりなに考えてるかわからない。  紙吹雪の舞う中、5人は手に手をとって、よろこびあった。しかし……。  「つまらん、つまらなすぎる! なんだ、この試合は?」  尾金持太造の乗るライドアーマーが、ゆらりと立ち上がった。  「大枚はたいて全国のクズ共をかき集めたのは、  こんなふざけた試合をみるためではない……」  尾金 持太造の全身から、すさまじい邪気が吹き上がってくる。  「な、なんだ?」  異様な気配に、みな騒ぎを止めあたりを見まわした。  ライドアーマーが両手を天にかざす。  尾金持太造の怒りに満ちた声が会場に響き渡った。  「地獄門よ、罪人の元へ来たれ!!」  大地が揺れ、本当に地獄の扉が開いたかのような轟音があたりにとどろく。  やがて例の大扉が、  巨大な黒い影を落としながら、  ゆっくりと会場上空に飛来した。  「変形合体! 地獄の門番!!」  大扉は、ライドアーマーを取り込んで、  うねるようにいびつに変形していく。  そしてついに、扉は不気味な巨大ロボットの姿になった。  「ひょーーーっ、なんですかーぁ、あれは?」  巨大ロボットのあまりの凶悪な姿に、ブタ丸たちは震えあがった。  「不吉な卦の正体はこれか……ピエールロボ、来い!」  ピエールロボが巨大ロボットの前に、皆をまもるかのように立ちはだかる。  だがピエールロボは、  ゾウの前に置かれた温泉みやげのこけしのように、小さくみえた。  まったくなんの役にも立たなそうな感じまで、まさにこけしそっくりだった。  「ウッキー! こわいよ〜〜」  「ウッキー! もうだめだ〜〜」  「ウッキー! ウッキー! ウッキー!」  観客席のサル達はパニック状態になっている。  「……クソ、なんだこのバケモノは、いったいどうやって戦えば……」  「ピエールロボもかないそうもないな……」  「……」  そのときブタ丸の頭の中では……。  ジャンガジャンガジャンガジャンガジャーン♪  再びダークブタ丸が降臨していた。  「あい、あーい。  今がチャンスじゃーん!  みーんなこっちはみてないぜー、  あい、あーい」  ブタ丸はダークブタ丸の声に従い、そっとエジモンの腕をとり後ろに下がった。  (ーーじょーだんじゃねー!  あんなのと戦って勝てるわけねーっつーの!!  さっさと賞金を独り占めして、  にげちゃおーっと♪)  こらーーーっ!  それでも主人公かーーーっ!!  ブタ丸はエジモンの耳に小声でささやいた。  「今だ、トンズラするぞ!  エジモン、『お家へかえる』ぜ!  次元トンネルを開いてくれ!」  なんと!  やはりホラーキューピーが最初に見破ったとおり、エジモンは次元使いだったのだ!  実はエジモンは、  次元トンネルを開いて、  どこにでも行くことができる能力をもっているのだ。  だからブタ丸は、イザというときのトンズラ用メンバーとして、戦力外のエジモンをつれてきていたのだ。  「わーい、お家にかえるんだねー。まっててー」  エジモンの目が超スピードでクルクル回転をはじめる。  あたりの空間が少しづつゆらぎはじめた。  次元トンネルが開くには3分ほどかかるのだ。  ブタ丸はそのスキに賞金の所へ走った。  「おたからおたから、オレのもの♪」  巨大ロボットは冷たく皆を見おろしている。  ブタ丸は見つからないようにロボットの後にまわり、体をかがめて忍び足で賞金の場所へ向かった。  「うすぎたないゴミのみなさん!  わたしはゴミ掃除をかねて、  みにくく争い潰しあう  あなたたちの姿を  たのしみたかったのですよ……」  「………!」  尾金持太造の言葉に、おもわずブタ丸は足を止めた。  「………ゴミそうじ…だと?」  ブタ丸は見つかる危険があることも忘れ、 立ちあがって巨大ロボットをにらみ付けた。  その一瞬、  ブタ丸の顔は普段誰も見たことのない、 シリアスな表情になっていた。  はじめて見せる、  ちょびっと主人公らしい面構だ。  「なのになんですか、いままでの試合は!」  ズン、とロボットが一歩足を進める。  「ウッキー……」  みんな、すくんで動けない。  「踏みつぶされたくなかったら、  皆で戦いなさい!!  ほらっ、そこのサル!  隣のヤツを殴りなさい!!」  「ウキ……」  「殴り合いなさい!!  殺されたいのですか!」    「ウッキー! ウッキー! ウッキー!」  サル達は必死で戦いはじめる。  「おい! 止せ、サル!」  「止めるんだ、みんな!」  ブタ丸やサルチームの選手たちが大声で止めても、戦いはおさまらない。  「あはははははっ、殺せっ、殺し合うのです! ブタ共!!」  「……ふざけるな!!  来い! ピェールロボ!」  ピエールはロボの頭にひらりと飛び乗り、  それでもはるか頭上にある巨大ロボの顔をビシッと指さした。  「よっし、ピエール!  なんか言ってやれっ!!」  ブタ丸もけしかける。  「おいっ! おまえ!」  ピェールの指はクルリと半回転し、ブタ丸を指さした。  「ブタはこいつだけだぞ!」  「そこにツッコムかぁぁぁぁっ」  ブタ丸は頭を抱えて叫んだ。  「そうだ! 失礼だぞ、ウッキー! オレたちなんか類人猿だぞ!」  サルチームのメンバーも騒ぎだした。  「ブタなんかといっしょにしないでもらいたいな。失敬だ!」  「オバ〜〜〜!」  「失敬なのはお前らだっ!!」  「あはははははっ、いいぞゴミ共!  争い合い、潰し合い、消えなさい!  町がきれいになって、  みんなよろこぶことでしょう!」  「気に入らねぇな……何様だてめぇ?」  ブタ丸は両手の拳をにぎりしめた。  「たしかにオレたちは、  バカでズルくてケンカ好きの  ロクでもないヤツラばっかりだが、  オレはみんなを  消えた方がいいゴミだと  思ったことはいちどもねーぞ……」  「ブタ丸……」  「戦うのもケンカするのもうらぎるのも、  みんなを競争相手(ライバル)だと  おもってるからだ!」  ……そういう言いかたもあったか。  「どー考えても……」  ブタ丸の拳が燃え出した。  「お前が一番ロクでもねぇっっっっ!!!」  ブタ丸はおもいきり屈み、  体を圧縮した。  そして限界まで体を縮めると、  その反発力を利用して大ジャンプをする。  「くらえっ!! スーパー     ブタ丸パーンチ!!!!!」  ブタ丸のパンチは、巨大ロボの顔面にヒットした。  ブタ丸はクルクルと回転し、スタッと地上に降り立つ。  「ハハハハハハッ、  なんのまねです、ブタ君!?  意味ないですよ、そんな攻撃!!」  ロボットはわずかに巨体をぐらつかせたが、それだけだった。  傷ひとつ付いていない。  「クッソ〜〜! まったくきいてねぇ……」  「どうする、ブタ丸?」  「しょーがねぇ、おいっエジモン!」  ブタ丸はエジモンの所へ駆け寄った。  「あ、ブタ丸ー、もうすぐトンネル開くからねー」  「よーし、いいぞ!  聞けエジモン、 『お家に帰る』のは、  あのデカイロボットだ!」  「え〜〜〜、ボクあのひとのお家知らないよー」  「あいつの『お家』はな……  そうだ! ブフフフフフフ……」  なにか思いついたブタ丸は、おもわずひとりでウケて吹き出した。  「あいつの『お家』は、  オバーQの出身地だ!  そこに送ってやりな!!」  ……うわ〜〜〜〜、それはエグイ。  「わかったー。  はーいロボットさん、  お・と・お・り・くださーーい!!」  エジモンは体の横に両手で輪をつくった。  輪の中の空間が渦巻き、虹色のオーロラが吹き出す。 「な、何っ!!!    何がおきている?!」 巨大ロボットの輪郭が いきなり崩れ出した。 ゆるやかな渦を巻きながら ロボットは輪の中へ吸い込まれていく。  「うわーーーぁ、  す、すいこまれるぅーーーっ!」  ロボットのあの巨大な質量が、小さな輪の中にすっぽり消えていった。  おそるべしっ! エジモン!  「お、おいっ! ここはどこだ! おいっ、聞こえないのかここから出せっ!」  輪の中から尾金持太造の声がきこえてきた。  つづいてキュルキュルキュルという、たくさんの車輪のきしむ音が響く。  「あ……な、なにか集まってくる……」  声はやがて悲鳴にかわった。  「ひぃぃぃぃっ、なんだこいつらは!! 登ってくる!  おいッ、誰か助けてくれっ!  金はいくらでも出す!!」  キュルキュルキュル、  キュルキュルキュル  「オバ〜〜〜」  「オバ〜〜〜」  「オバ〜〜〜」  「た、助けてくれぇぇぇぇーーーーっ!  うわぁぁっ!!、  こわいよぉぉぉぉぉ〜〜〜っ、  ねばねばしてるよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ、  ぎゃぁぁぁぁ!!!!  触手がぁぁぁぁっ……」  キュン、とそこで輪が閉じた。  尾金持太造の  その後の運命はだれもしらない。  ホラーキューピーは手を合わせた。  「因果応報なり」  ……だね、まったく。  「よっしゃー!! 賞金もらってかえるぜ!」  今度こそブタ丸は、思いっきり堂々とガッツポーズをとった。  「わーい、わーい」  「やれやれ、だな」  「く〜〜、こんどこそこれで……」  「あのー申しにくいのですが……」  そのとき、物陰にかくれていた司会者が、トコトコとブタ丸たちの前にあらわれた。  「ん、なんだ? 賞金か? くれるんだったらいつでもいいぜ!!」  「先ほどの火のついたサル丸選手が、賞金の札束の上に落ちてまいりまして」  「え……」  「賞金はその時全部燃えてしまいました」  「あのクソザル……」  そこにぶっ飛ばしたのは君だ、ブタ丸。  「そういうことですので、残念でしたね。それでは」  石になった一同を背に、司会者はスタスタと去っていった。  こちらも因果応報ってことだね、ブタ丸。  5人はガクッと首をおとした。  今回の賞金、0円!  残念〜〜!!    (おしまい)